――確かに絵本には脈絡のないものが多いですよね。絵本が、もっとも田中さんの表現したいものを表現できる場だったということですか。
田中 そうですね。あとはお笑いの発想を絵本にしたら“芸術”になり得るなと思っています。たとえば、サルバドール・ダリの作品は“お笑いの脳”で発想したんじゃないかと思うものも多いんですよね。やたらといろんなものを松葉杖で支えたり、ヴィーナスに何個も引き出しをつけたり……。きっと意味はあると思うのですが、大喜利の回答のようにも見えてきます。まだ予定はないのですが、出版社の方には、海外でも絵本を出したいということをちょこちょこアピールしています。
――最初から海外進出の狙いがあったんですか。
田中 そうですね。海外の方にも、自分のギャグ漫画を読んでほしいという思いはありました。しかし、自分のギャグが海外でウケるか不安があったり、読む方向が英語圏だと左から右ですが、山崎シゲルの場合は右から左にしてありので、会話の順番だけじゃなく絵の配置も変えないといけないので難しいとも思います。その点、絵本であれば文字数も少ないし、読む方向も左から右へと英語圏と同じにしています。よりたくさんの国の方に、自分の作品を楽しんでもらえたらうれしいです。ベストセラーになったりしたら、半永久的に売れるのではという期待もあります。
――これだけブレイクしても、常に先々を見据えているんですね。
田中 いつまで仕事を頂けるかわからないですからね。お笑いを始めて早い段階で売れていたら、今の状況も少しは調子に乗れたのかもしれないですが、十数年仕事がまったくなくて地獄のような生活を送ってきたので、調子になんて乗れないです。それこそ腕を骨折でもしたら、すぐ仕事に支障が出てしまいます。どんどん、いろいろなことに挑戦していきたいと思っていて、そのひとつが絵本です。実はもう4作目まで考えています。実際に本にするまでには、もう少し時間がかかってしまうと思いますが。
――ありがとうございました。
今回、どの話を聞いても、その考え方や仕事術に“お笑い芸人ならでは”の思考を垣間見ることができた。昨今、ビジネスや漫画、小説で活躍するお笑い芸人が増えていることにも納得がいく。
実際、その中身も知らずに、「芸人がつくったものだから」と端的に批判する人もいるが、その発想や戦略の豊かさ、スピード感が、さまざまな分野で発揮されているのは必然だろう。
『サラリーマン山崎シゲル』や絵本での活動しか知らない方は、ぜひ田中さんの芸人としての活動にも注目してみてほしい。事務所の後輩である、お見送り芸人しんいちとのユニット「田中上野」では、フリップを使った歌ネタを披露しているが、これがかなり面白い。さらに、ライブでは、お客さんにお題をもらって即興で歌詞をつくり、それを相方に渡して曲をつくってもらっている間に絵を描くというネタを披露している。企業タイアップやツイッターのお題募集で発揮されている“即興力”を目の当たりにできることだろう。
(取材・文/小川でやんす)