昨年のサッカーJ2リーグで快進撃を続けたチームがある。東京都町田市を本拠地とするFC町田ゼルビアだ。
J1ライセンス取得上の関係上、2018年の町田は「昇格なきチーム」だった。それにもかかわらず、J2で4位というクラブ史上最高の成績を残した。J2最小クラスの予算規模である町田のチーム作りができたのか。そのキーマンとなるのが、現場を預かる相馬直樹監督だ。
『不屈のゼルビア』(郡司聡著、スクワッド刊)は、史上最強ゼルビアと呼ばれた2018シーズンの戦いぶり、相馬監督の指導哲学、深津康太やリ・ハンジェ、中島祐希といったチームを支えた選手たちの奮闘の軌跡をたどる一冊だ。
■町田の快進撃と相馬直樹という監督
本書の第2章でまずフォーカスされるのは、相馬直樹監督である。
3連敗しても、どんなに勝っていても、いつどんな時でも自分の考えをブラさない。信念があって筋が通っている、ブレない指揮官と選手やスタッフから称されているのが相馬監督だ。あまり戦術やプレーのディテールについて多くを語らない。著者はそんな相馬監督について、「サッカーはメンタルのスポーツ」という大前提のもと、勝利への逆算を追求してきたのではないか、とつづる。
そこで重要なキーワードとなるのが「精神的優位性」だ。
著者が分析する町田のチームスタイルは「攻守両面でボールに複数人が関わる攻守表裏一体のサッカー」。基本的なスタイルはタイトな守備から奪ったボールをスピーディーなカウンターにつなげる形だ。
そのサッカーでは、「精神的優位性」がキーワード。ピッチ上の選手たちが一人でも多くボールにかかわることで、一人がかわされても周りの選手たちがカバーできるようになっていれば、精神的優位性は保たれる。一方で、ボールを奪われてしまう感覚を覚えた相手は、精神的優位性を奪われ「やりづらい」と感じる。町田のプレッシャーが生み出す心理効果だ。
さらに著者は、相馬監督のブレない信念は、チームマネジメントの観点でも反映されていると述べる。「一戦必勝」というスタンス、目の前の一戦に勝つことに注力する。それは「相馬ゼルビア」の代名詞であるという。
妥協を許さぬチームマネジメント、そして決して欠かさない選手たちへの信頼とリスペクト。2018シーズンに選手会長を務めた奥山政幸選手は、相馬監督について、こう語っている。
「(中略)相馬監督は信念があって筋が通っている監督だなと感じています。それによって選手たちもこれも信じてついていけばいいんだと思っています」(p.61より引用)
周囲から「なぜJ1に上がれないのに、モチベーションが下がらないのか」と疑問を投げかけられたという。だが、相馬監督のもと、一戦必勝の積み重ねの結果が、クラブ史上最高の成績に繋がったのだろう。
町田ゼルビアの快進撃の裏側を読むことができる一冊だ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。