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「架空の天皇」神武天皇と邪馬台国に関する大胆な議論…母系母権社会を主体とした祖先

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『邪馬臺国と神武天皇』(牧尾一彦著、幻冬舎刊)
『邪馬臺国と神武天皇』(牧尾一彦著、幻冬舎刊)

 日本の古代史は文献や資料がほとんどなく、謎が多い。だからこそ様々な議論や思索の余地がある。

 たとえば日本の初代天皇といわれる「神武天皇」をめぐっては架空論、実在論が展開され、2~3世紀頃に存在していた邪馬台国は存在していた場所について様々な研究者たちが言及している。

 『邪馬臺国と神武天皇』(牧尾一彦著、幻冬舎刊)は、そうした日本の古代史を巡る著者・牧尾一彦氏の考察がつづられた、730ページ以上に及ぶ大著だ。これまでの議論を批判的に検討しつつ、タイトルの通り「神武天皇」の正体と、「邪馬臺国」(書籍内の表記に基づき、以後「邪馬臺国」と表記)との関係について推察している。

「神武天皇」とオホタタネコ、その共通点とは

 本書の大きなトピックの一つが、「神武天皇」の正体は何者かということだ。

 牧尾氏は神武天皇について「架空の天皇である。実在した天皇ではない」としながらも、「実在の人物を下敷きにして物語が作られている」と述べ、その人物として「オホタタネコ」、またの名「トヨミケヌシ(豊御気主)」を挙げている。

 オホタタネコは『古事記』の崇神天皇事績譚の冒頭を飾る説話の主人公であり、三輪山の神である大物主神を祭祀した人物で、「大和朝廷最初の祭主」と牧尾氏は考えている。また、神君(ミワのキミ)、鴨君(カモのキミ)の祖である。

 このオホタタネコについて、牧尾氏は『古事記』と「地神本紀」の系譜を照らし合わす。そこにおいて、『古事記』が記す大物主神から4世孫オホタタネコまでの父子直系系譜の下に、「地神本紀」の伝えるオホタタネコの子孫系譜を付け足すことができると指摘した上で、次のように述べる。

 クシミカタ命からオホタタネコ命を経てオホミケ持命に至る五代の系譜は、「地神本紀」が伝えるアメヒカタクシヒカタ命からトヨミケヌシ命を経てオホミケ主命に至る五代の系譜と実は同一の父子五代を伝える系譜であろう。従って、トヨミケヌシ命とは、オホタタネコ命の亦の名、その別称ないし尊称であろう。(p.292より引用)

 そして、曽祖父であるクシミタカ命からオホタタネコに至る4世代は、ちょうど伝承の時代の天皇とされる孝霊天皇(第7代)から崇神天皇(第10代)に至る4世代に並行すると考えられ、その時代は西暦3世紀の半ばから4世紀初頭にかかると言う。

 ここから牧尾氏はオホタタネコ(=トヨミケヌシ)と神武天皇の共通点について探る。

 オホタタネコの父祖たちの妻の出自を順に見ると、日向、出雲、伊勢、紀伊、大倭という地名が出てくる。ここから、日向から東へ移動し、背後から大和に入る順路を取り出すことができる。実はこの順路は、神武天皇の東征神話の順路に一致する。神武天皇は日向から発し、現在の九州から中国地方を西に向かい、難波から紀国(紀伊=和歌山)にまわり、大和へと侵入している。

 さらに、名前の一致もうかがえるという。『古事記』では神武天皇には三種の名前があり、その一つが「トヨミケヌ」。この「ヌ」はクヌ(国主)のヌに同じく、ヌシ(主)という意味なので、「トヨミケヌシ」と名前が重なるのだ。そして、牧尾氏は次のように結論づける。

 神武天皇とは、オホタタネコの亦の名を借り、オホタタネコとその三代の祖父たちの伝承を一身に集積してその説話が創り出された、架空の初代天皇であったのではないか、ということである。(p.298)

 ◇

 では、この神武天皇と邪馬臺国はどのような関係があったのか。本書の後半では大胆に議論が展開されていく。

 『古事記』『日本書紀』、いわゆる「記紀」を中心とした文献と、「記紀」を巡る先人たちの研究から見えるものを少しずつ捉えていく本書。古代の人々たちの動きを通して探り出されるのは、父系父権王族によって繰り返し侵略され、その支配を受け入れることになった、母系母権社会を主体とした土着弥生人たち――私達大部分の祖先たちの運命である。

 そうしてその母系母権社会の彼方に、人類の初原史への眺望を開こうとするのが本書である。人間とは何者であり、何者であるべく運命付けられたのか、という根本問題。本書はこの根本問題に迫るための扉を開く。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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