これだけ相続が話題になるのは、相続税の仕組みが変わるから。しかも、納税する側にとっては悪いほうに変わるため、お金持ちというより小金持ちは気が気でならない。
特に不動産価格の高い3大都市圏(首都圏、大阪圏、名古屋圏)の不動産所有者は、相続税を納めないまでも、相続税の申告が必要になる可能性が高い。これまで関係ないと思っていた「相続」が、ここにきて急に自分の身に振りかかると思えば、にわかに不安になってしまう気持ちもわかる。
そこで、『親が亡くなったあとで困る相続・遺言50』(総合法令出版)の著者でファイナンシャルプランナーの小山信康氏に、相続税に関する注意点について聞いた。
「2015年1月1日より、相続税の控除額が引き下げられる予定です。例えば、相続人が妻と子ども2人の場合の控除額は、14年までは8000万円ですが、15年以降は4800万円となってしまいます。大都市の一戸建てともなれば、土地・建物を合わせて5000万円を超える物件が多数に及ぶので、当然、相続に不安を覚える人も増えることになります」
これだけ話題になるのもニーズがあってのこと。どうやら、ある程度の資産を持っている人たちは、相続のニュースに敏感になってしまうらしい。
●相続税に関するニュースが多いワケとは?
ただ、いくらタイムリーな話題とはいえ、資産を相続した人たちのうち、相続税を納税しなければならない人の割合は数割程度と聞く。それに、相続なんて人生に数回しかない。それほど興味を持っている人は多くないのではないだろうか?
「不動産業者や金融機関にとって、相続税の改正は稼ぐチャンスなんです。ただでさえ相続税対策は粗利の良い商売ですから、広告にもお金をかけることができます。雑誌で相続に関する特集が組まれれば、広告がビッシリ埋まっていますよ。情報の需要が少なくても、供給が多ければニュースになりますから」(小山氏)
相続税対策といえば、不動産や墓地の購入、最近では孫の教育資金贈与など、さまざまな手法が挙げられる。相続関連に多くの業界・業者が殺到するというのもうなずける。
「『相続税の支払いで貧乏になる』と過激なことを言う人もいますが、それは考えられません。今回、相続税の最高税率が55%に引き上げられましたが、累進課税であることや各種の特例を考えると、半分以上の財産を相続税で支払うことになるのは、ほんの一握りの人たちでしょう。納税によって財産が減ることはあっても、貧乏になることまでは考えにくいです」(同)
しかし、バブルの頃には、相続で財産を失った人が多数いたと聞く。今後、そんな不安はないのだろうか?
「バブル期に財産を失ったのは、相続税対策に失敗した人たちです。過剰に不動産を購入するなどして、課税評価額の引き下げを狙ったのですが、それらの投資に失敗して、せっかくの財産を失うことになったのです。怖いのは相続税そのものよりも、相続税対策の失敗なんです」(同)
●不動産購入するにしても、借金は要注意
相続税対策の代表例は資産の購入だ。現金で持っていると、それが100%相続税評価額となってしまうが、それを不動産等に換えることで、同じ時価でも評価額を引き下げることができる。有効な対策だと思うのだが……。
「確かに、ある程度の相続税対策は必要でしょう。しかし、薬も飲みすぎれば毒になります。相続税対策のやり過ぎは毒です。相続税を支払うことになっても、ある程度の現預金を残しておかないと、自分自身の生活に困ってしまいますよ。生活費のために相続税対策として購入した不動産を売却する事態になってしまえば、本末転倒ですから」(同)