コミュニケーションの力は人間活動にとって何にも代えがたい能力だ。この力に長けている人は思い通りに相手の信用を得たり、好かれたり、聞きたい情報を聞き出したり、隠し事を打ち明けさせたりできる。当然仕事でもプライベートでも物事を自分に有利に運ぶことができる。この能力には「巧みな話術」や「相手の関心を惹きつけるカリスマ性」が多くの役割を果たしているのだろうか。いや、実はそうではないのかもしれない。
まず自分の思考や行動を封じる
相手の信用を得るのも、隠していた秘密を自ら話させるのも、必要なのは「話す」「説得する」といったこちらからの働きかけよりも、相手の話を「聞く」こと。そして聞くことには特別な才能は必要ない。傾聴は誰にでもでき、しかも得るものの多いスキルなのだ。
『悪魔の傾聴 会話も人間関係も思いのままに操る』(中村淳彦著、飛鳥新社刊)は、この傾聴のもつ恐るべき力と、その身につけ方に注目する。特別な才能がなくても、口下手でも、恥ずかしがりでも、傾聴を身につけることはできる。
悪魔の傾聴は、相手に対して「~をしない」不作為の技術が中心です。
自分の話をしない。
相手の話を否定しない。
自分の意見を言わない。
アドバイスしない。(P8より)
何かをするのではなく、むしろ自分の思考や行動を意識して封じることこそ傾聴では大切。だからこそ、特別な才能を必要としない。むしろ一般的に言われる「コミュニケーション力」と傾聴は全く別物だ。
否定しない。比較しない。自分の話をしない
傾聴は、基本的に自分を「聞き手」の立場に置くもの。「インタビュアー」になったつもりで行うといいかもしれない。となると、NGなことも自ずと見えてくる。
本書にこんな会話例が出てくる。相手が「おしゃれなお店に行きたいけど、会社帰りだと居酒屋になってしまいますね」と言い、自分が「居酒屋はどこに行っていますか?」と答えたとする。相手は「近所の庄やが落ち着くので好き」と返してきた時に、「僕は断然、磯丸水産派(あるいは庄屋以外の他の居酒屋)」とやってしまう。
あるいは20代女性と40代男性のこんな会話。20代女性「実はアイドルが好きで。特に好きなのはハロプロですね。この前、Juice=Juiceのライブに行ってきたんです」。40代男性「知らないなあ。ハロプロならモーニング娘。だよね。俺は安倍なつみとか好きだったなぁ。ハロプロといえば、モーニング娘。だよ」
両者の会話のどこがNGなのか、お分かりだろうか。前者では、相手が好きな居酒屋の話をしているのに、途中から自分の話にすり替わっている。後者ではハロプロつながりの話題ではあるものの、男性は女性の話を遮って自分が知る時代のハロプロの時代にすり替えてしまっている。
どちらも、聞き手だったはずの自分が、話し手の立場にしゃしゃり出てしまっているのである。どちらの場合も、相手から好意を持たれたり、信頼されるどころか、相手を白けさせ、もしかすると苦痛な思いをさせてしまうかもしれない。
傾聴において「否定する、比較する、自分の話をする」は三大悪。自分の話をする時は相手に質問された時のみ。質問をするなら、自分が知りたいことを質問するのではなく、相手の語りを促進するための質問をする。これだけで会話の成功率はまったく変わるという。
「なんだ、そんなことか」と思った人は、普段の自分の会話を振り返ってみるといい。自分について語りたいのは人間の根本的な欲求。この欲求を抑えられない人は案外少なくない。そして、相手の心を掴むチャンスを逃しているのである。
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「否定しない。比較しない。自分の話をしない」という、傾聴の基本的なスキルをここでは紹介したが、これはまだ「悪魔の傾聴」の入り口の入り口にすぎない。本書では、もっと悪魔的に、もっと相手の心を惹きつける傾聴のテクニックが数多く紹介されている。
会話上手な人、魅力的な人は必ず知っているこれらのスキル。身につければ様々な場面で役立つはずだ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。