それは、嵐の先輩であるSMAPが持つセレブと庶民の二元論でもなければ、「会いに行けるアイドル」として親近感を武器にブレイクし、大衆文化となったAKB48とも違う性質を持っている。
関氏は嵐に「ヒーローやカリスマにならなくとも光る個性、しかもその個性と協調性が対立することなく、絶妙なバランスで『和』の雰囲気を醸し出す、五人五様という多様性の肯定」(本書P219-210より)を見出す。そして、匿名性や画一性に陥ることなく、メンバーそれぞれの顔が見えることに、人々は魅力を感じていると分析する。それを「嵐的(アラシック)」在り方と言うのだ。
この考察の根拠になるものの一つが、著者によるラカンの「四つのディスクール」理論を応用した、メンバーの分析である。まず櫻井翔さん、相葉雅紀さん、二宮和也さん、松本潤さんという4人のメンバーの関係性を説明し、その上で“リーダー”大野智さんの立ち位置を通して、国民的な人気を誇る嵐独自の在り方を理解する。
そこから分かることは、嵐が“この5人でなければブレイクできなかった”その理由である。
本書は、表象文化研究、大衆文化研究を通して、「嵐のブレイク」という現象を分析するという態度で一貫している。この点は、他の嵐の本に限らず、今ブレイクしている人々を分析する本とは一線を画する部分であり、最大の読みどころともいえる。また、「アラシック」に対する批判の分析もなされていたり、ジャニーズにとどまらない他の様々なグループとの比較分析がなされていたりするので、“ファンじゃない人”こそ面白く読み込める一冊だ。
ちなみに、「関氏の好きな嵐のメンバー」はここでは伏せておくが、その答えと理由を読むと「ああ、なるほど、そういうことか」と思うだろう。もちろん「好き嫌い」は個人的な感情だが、関氏がフランス現代思想を専門としている研究者であるということは、一つのヒントになるはずだ。
(新刊JP編集部)
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※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。