大企業とベンチャー企業のどちらに就職するのが良いのかについては、「結局は人による」「一概には言えない」などと言われますが、大企業とそれ以外の企業でのキャリア形成には、実は本質的な違いがあります。一言で言うと、それは成長させてもらうのか、それとも成長するのか、という主体の違いです。
「成長とは組織にさせてもらうものだ」と思っている人は、大組織に就職するといいでしょう。あまり効率は良くないでしょうが、組織側から黙っていても定期的に研修が与えられるし、真面目に勤めてさえいれば年相応の担当業務が与えられて、だいたい35歳くらいまではそこそこの経験を身につけられるでしょう。
「成長はあくまで自分自身でするものだ」と考えている人は、最初から仕事を任せられる機会の多い新興組織に就職するといいでしょう。そういう場所では、組織側が研修を与えてくれたり、放っておいても担当業務や賃金が上がっていくということはまずないでしょうが、自分次第で、ものすごい成長を遂げられる可能性があります。
要するに、自分が自身のキャリアのかじ取りをどこまでしたいかによって、どちらに進むべきかはおのずと決まってくるはずです。それは人に聞くまでもなく、自身が一番よくわかっているはずです。
●併存する2つの世界
筆者は、今の日本の職場には、大きく分けて2つの世界が併存していると見ています。
1つは、レールがあって、「そつなくこなせること」が何より重視されている世界です。拙著『若者はなぜ3年で辞めるのか』(光文社)で述べたのですが、レールのある年功序列組織をイメージしてもらえればわかりやすいと思います。すでに確立されたビジネスモデルなり組織なりがあって、前例を忠実に踏襲できる素養と、組織に特化したスキルをこれからじっくり吸収できるだけのポテンシャルがある人材。具体的に言えば、3年以上寄り道をしていない、高学歴の新卒が最も好まれます。
そして2つ目は、レールどころか道すらなく、どこにどうやって進むかを自分で決めないといけない世界です。創立間もないベンチャーはもちろん、年功序列という発想の無い年俸制企業はほぼすべて、こちらの世界に属する組織といっていいでしょう。こちらの世界では、自分で目的をつくって進むしかありません。だから、ものすごく前進できる人もいれば、何年勤めてもまったく前進できない人もいます。
「成長は組織にさせてもらうものだ」と考えている人は、間違いなくレールのある世界に進んだほうが無難でしょう。逆に「自分で成長したい」という人なら、後者でも十分にやっていけるでしょうし、歓迎もされるはずです。
筆者が見るところ、ベンチャーに就職したけれども特に成長しているわけでもない普通の人の中には、どうも「成長させてもらいたいタイプ」がかなりの割合で混じっているように見えます。