A氏 ええ。その後、一時期社員を増やし、資金がショートギリギリになってしまった時があったのですが、それでも社長であるBは、資金繰りなど特にしていませんでした。さすがにまずいとなって、私が一部の社員をやめさせたりしましたが、その頃から誰が実権を握っているかわからなくなりました。私とCは徒党を組む感じで、社長のBと対立的な雰囲気になりました。とはいえ、私も完全にCのことを信用はしていませんでしたが。
象徴的な事件として、ある年の決算前に、例の税理士が、海外の会社に、ウチの利益をいったん預けるという話をBから聞いたのです。Cは「そういうことはすべきじゃない」とBに訴えました。Bは、それまでの厳しい経験も踏まえて、「現金がなくなったときに備えてだ」と言い張り、Cの意見を受け入れませんでした。
そんなこんなで1カ月くらい、毎日ドンパチしてましたね。話はいつも平行線でした。BとCの対立構造は深まるばかりでしたが、自分は仕事にも追われていたので、調整役に徹していました。
社長の辞任
――その後は、どういう方向になっていったのですか?
A氏 当然、雰囲気はよくなく、みんなモンモンとしてました。Cが結構大きい仕事を取ってきたときも、Bは「やる必要がない」と拒否したりして、またドンパチしてましたね。経営のみならず、業務としても方向性がズレてきていましたね。Bは全部を抱え込んで悩んでいた感じでした。
それである日、Bが私と2人きりのとき、「オレ、会社辞めるわ」と。
――それを聞いて、引き留めたんですか?
A氏 気持ちは半々でしたね。Bとは友人で、そこからスタートしたわけですが、一方でBが会社の成長を止めているのは許せないという気持ちもありました。そもそもBは、友人関係とビジネスを分けられないタイプで、私はまったく逆。そうして割り切っている私を見て、Bは「仕事をしているときのAは嫌いだよ」と。大学時代のように腹を割って話をしているBを見て、心を揺さぶられましたが……。ただ、もう一緒に仕事はしたくないと思いました。
――Bさんが辞めるということを聞いて、Cさんはどう思ったんでしょうか?
A氏 Cにとっては、願ったかなったりの状況になったわけですよね。Cは私に「Aが社長になるのは当たり前だよ」と言いまして、実際、その手続きを進めていました。ですが、私も特に会社のビジョンを持っていたわけではなかったし、経営的なセンスもないのはわかっていたので、躊躇はしていました。
そこで、残っていた社員2人に「Cに社長をやってもらおうかとも考えているんだ」と話したところ、2人は「それなら私たちも辞めます」と口を揃えて言ったので、どうしようかなと。
そんな時、まずは新しい税理士を雇ったのですが、帳簿や決算書を見せたら、「これ、ヤバいですね」と……。
私は、もうそんな会社を引き継ぎたくないし、Cとは一緒に続けていけない気持ちもあったので、それなら別々の道に分かれて、会社を解散しようと決めました。Cにもそれを伝え、了解をもらいました。
同情してくれるクライアント
――解散と決めてから、どうしたのですか?
A氏 まず、それまでのクライアントに事情を説明していきました。一部のクライアントからは、「突然すぎるよ」と怒られましたが、「ウチへ来ないか」と誘ってくれる人もいたり、おおむね皆さん同情してくれました。
――解散すると、退職金みたいなものは得られたのですか?
A氏 いえ、何も。数年間がむしゃらに働いてきて、結局これかと……。でもそれ以上に、当時はとにかく早くこのゴタゴタから解放されたいという思いが強かったですね。
――起業したことを後悔していますか?