私はこうして日本マイクロソフトで数少ない女性営業部長になった
田島 転職組は、当然即戦力にならなくてはなりませんが、その際、新しく入った会社の文化や慣習に合わせていかなくてはいけないと思いました。ですから、私が所属した組織の「暗黙知」とはどういうものなのか? 観察しました。ミーティングの進め方や人間関係、仕事の進め方などです。そして、その「暗黙知」にそって行動するようにしました。例えば、上司に相談する場合、朝一に話しかけると、営業の準備があるから仕事の邪魔になってしまうので、仕事の相談は夕方にしようなどという工夫です。
――上司がリラックスしている時に相談しようと、わざわざ喫煙室で息抜きしているタイミングを狙って、話しかけたりなさっていたとか……。
田島 ええ(笑)。意外と喫煙室って、みんなリラックスしていることもあって、物事が決まっていくことが多いんですよ。喫煙室まで企画書を持って、上司を追っかけていったこともありましたね。普段はこわもての上司も、喫煙室だとリラックスしています。自分が作った企画書を冷静な状態で見てもらうためには、やはりリラックスしている状態で見てもらったほうがいいわけです。自分の仕事の結果を出すためには、どのタイミングが一番効率的なのかを知るために、周りを観察して「暗黙知」を理解するということは、すごく大事なことですね。
●管理職は、先頭を走る必要はない?
――そうした取り組みもあり、マイクロソフト日本法人では営業部長になられたわけですね。
田島 はい。私よりも営業成績が良く、業界経験も長い優秀な人は山といたんですが、上司から言われたのは「お前は、人をいなせるからいい」ということ。例えば、人の間に入って調整したり、取りまとめをしたりする部分については、確かに割とうまくやれるほうかなと思っていたのですが、そのあたりを上の方々が評価してくれたのだと思います。
1つの部署では仕事が完結しないくらい、いろいろ組み合わせて提案をしなくてはモノが売れない時代ですから、多様な人たちと共同して物事を進めていくことが、どのような企業にも求められています。そうすると調整能力があったり、コミュニケーション能力があったりという強みが必要です。その部分が評価された結果だと思います。
――そして、2度のプレジデント・アワード(社長賞)を受賞されたわけですね。
田島 でも、部長就任当初は相当戸惑いましたよ。部長になった自分に対して、まったく自信が持てなかった。部下の中には、私よりも社歴が長い、業界経験が長い、年上の方もいました。みんな私よりも仕事がデキる人たちだから、「部長である私の存在価値は何なのか?」というコンプレックスとプレッシャーから抜け出すのが大変でした。
――抜け出したきっかけは、なんだったのですか?
田島 あるマネージャー研修で、講師の方と面談した時に、悩みをぶつけてみたんです。
「自分は『こうすべきだ』というものは持てないけど、違う意見をまとめたりすることはできると思うんです」
と。すると講師の方から、「じゃあ、田島さん、それでいいじゃないですか」と言われたんですね。
「別にあなたが先頭を引っ張る必要はないけど、優秀な人たちをまとめる人がいないと、組織が機能しないこともある。田島さんは、それをやればいいじゃない」
と言われた時に、ようやく自分自身のマネージャースタイルが築けた。私は先頭を走らなくていい。むしろ部下たちの真ん中にいて、同じ方向を見ながら、部下が大変そうだなと思ったらフォローして、「AとBがぶつかっているな」とわかったら調整する役目に徹する。そうすることで彼らの営業成果を最大限に引き出せば、チームの成果は上がる。それでいいやと思ったんです。そしたら、そのチームでプレジデント・アワードをいただけたので、すごくうれしかったですね。
●心のバランスを保つ、本当のワークライフバランス
――本書には、心のバランスを保ちながら働くための、具体的な処方箋も豊富に書かれていますね。例えば、「積極的休日出勤」について教えてください。