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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第2回

社用車で演歌を唸り、ホテルのスイートを定宿にする巨大新聞社長

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「Thinkstock」より
※前回連載はこちら

【前回までのあらすじ】
ーー巨大新聞社・大都新聞社の役員室は「大都タワービル」24階フロア、最上階の貴賓室の1階下である。社長室は皇居を見下ろす角部屋で、30畳ほどの広さだ。その部屋の主・松野弥介社長は、日頃から新聞は読まず、政治家や企業のパーティー三昧の日々を送る。ーー

 大都新聞本社の駐車場は、地下2〜4階フロアにある。地下2階に配車を管理する車両部や運転手の控室、乗降口があった。1階正面玄関が開いているのは午前9時から午後8時までで、それ以外の時間帯は車に乗り降りするのは地下2階だった。役員によっては常に地下2階で車に乗り降りする者もいたが、同社社長の松野弥介(やすけ)は、正面玄関が開いている時は正面玄関に社用車を回させていた。

 松野はエレベーターを降り、足早に正面玄関に向かった。そして、社用車に乗り込んだ。

 「今日は、どちらでしょうか」

 運転手はハイヤー会社から派遣された2人が交代で務めているが、社長就任後、1回も変わっておらず、2人とも顔なじみだった。

 「リバーサイドホテルまででいい。あとは使わない。明日は午前7時に迎えを頼む」

 「それは聞いています。今日はどうされますか?」

 運転手は車を出さずに松野に尋ねた。それだけで通じるのである。

 「所要時間は15分くらいだな。いつもの3曲にするよ」

 運転手は助手席に置いてあるカラオケのプレーヤーを操作して、車を発車させた。走り出すと、佳山明生(かやまあきお)の「氷雨(ひさめ)」の伴奏が流れ出した。後部座席の松野は身繕いを正し、抑え気味に歌うが、張りのあるバリトンが狭い車内に響く。3番まで歌うと、しばらく間があって、渥美二郎の「釜山港へ帰れ」が始まる。

 最後が大月みやこの「女の港」だ。「釜山港へ帰れ」は「氷雨」と同じ歌い方だが、「女の港」は女性歌手の演歌だけに、より情感を込め小節をきかせる。それが松野の流儀だった。

 3曲とも、1980年代前半の演歌のヒット曲である。十八番(おはこ)中の十八番だった。

 歌い終わると、運転手は必ず、こう言って感心してみせる。

 「何度聞いても聞き惚れますね。プロとしてCDでも出したらどうです? 本当に」

 社用車はトヨタのセンチュリーである。車内は広いとはいえ、運転手を聞き手に松野がうっとりした表情で演歌を唸る光景は奇怪である。

 その光景を目にするのは、バックミラーに映る松野をちらっと見る運転手だけだ。信号待ちで、並列した車から目にすることはあるだろうが、車の外には歌声は聞こえない。

 「えらく誇張した表情で運転手に話しかけているおっさんがいる」
 「一人でうっとりした表情で何か唸っているおっさんがいる」

 訝しく思ってもその程度であろう。

●運転手の「お追従」

 松野が3曲目の大月みやこの「女の港」を唸り終わると、社長車は水天宮前の交差点で止まった。ここで、運転手が毎度おなじみの「お追従」を言ったのだ。

『社長は会社を「大きく」するな!』


すでに巨大な会社の社長になったら?

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