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ワタミ“ブラック”批判を洞察する…「社会貢献もどき」に走る人たちが学ぶべきこと

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DVD『社長 渡邉美樹』(ポニーキャニオン)
 今回は「ブラック・ユーモア」を一つ。

 「ソーシャル・ビジネス」の拡充を提唱する渡邉美樹氏が創業したワタミのグループ企業であるワタミフードサービスが、去る6月27日、「第2回ブラック企業大賞2013」で1位を受賞した。選ばれた理由は次のサイトに記載の通り。

 http://blackcorpaward.blogspot.jp/

 それにしても、渡邉氏が参議院選挙立候補を前にワタミの経営から一切手を引いたのは意味深である。

●ソーシャル・ビジネスに自己実現を夢見る若者たち

 まさに、この笑えぬ笑い話は、現代の世相を反映している。

 社会貢献を最大目的とする「ソーシャル・ビジネス」は、近年、若者たちに大変注目されている。資質があるかないかは別として、若者たちは「社会貢献」という言葉や概念が非常に好きである。「経済成長」を実感したことがない彼らは、「人生の最大目的は金儲けではなく社会に貢献することだ」「社会に良いことをしている人として認めてもらいたい」という思いが強い。前者が社会心理学者のアブラハム・マズローがいう自己実現欲求であり、後者が承認欲求に当たる。

 そもそも、会社をつくるだけでなく、着実に成長させた、起業家ならぬ「企業家」と呼ばれる人たちは、事業を成功させることで自己実現したのだが、「ソーシャル・ビジネス」という言葉が好きな人は、社会に貢献するという行動自体で自己実現を感じているようだ。

 このようなニーズをとらえてか、東京には社会起業大学なるものまでが存在する。「理事長」「学長」を名乗る人が表立って活動し、ホームページなどでは「社会起業家を育成するビジネススクール」を標榜している。

 大学関係者だけでなく、社会人対象の大学院に少しでも関心のある人であれば、「ビジネススクール」と聞けば、「経営(学)大学院」を運営している「大学院大学」だと思うだろう。近年、大学院設立の規制が緩和され、株式会社型の大学院も誕生した。社会起業大学は、文部科学省が認可した大学や専門学校でないどころか、株式会社大学院でもない。実質的には、人材紹介ベンチャーのリソウル株式会社が運営しているセミナー事業である。

 したがって、社会起業大学では「大学卒」や「大学院卒」の学位は取得できない。それにも関わらず、入学金や授業料は私立大学並みである。「大学」という名前がついているので、勘違いして入学してしまった人がいるのではないかと心配になるが、中を覗いてみると、本当に社会に役立ちたいという純粋な心を持つ若者たちがまじめに勉強している。

 同大学は、2010年から「ソーシャルビジネスグランプリ」なる大々的なビジネスプラン発表イベントを東京都内の会場で年2回実施。今夏も「ソーシャルビジネスグランプリ2013夏」が8月4日に開催される。創業3年以上、同3年未満、社内起業などを対象に3部門の賞を決定し、審査員と一般観覧者が各部門の大賞を決定するイベントである。エン・ジャパン株式会社が特別協賛しており、最大1000万円の出資交渉権を提供している。

 アカデミズムの世界では、「大学を名乗りソーシャル・ビジネス・ブームに便乗し、著名人を担ぎ出して、知名度を高めようとしている胡散臭い存在」と見ている向きも少なくない。「文部科学省も気にしている」といった声も聞く。筆者は同大学の学長に、このような見方があると指摘したことがあったが、まったく気にしていないようであり、「大学」という名称を使い続ける考えだ。

 ただ、「著名人を担ぎ出している」と思われる時、気をつけなくてはならないのは、その著名人がどのようなブランドかという点である。

 なんと、同大学は渡邉氏を招き「これからのソーシャル・ビジネスを語ろう!渡邉美樹 夢寺子屋 in社会起業大学」なる講演を依頼した。それだけではなく、ビジネスプランを提示した起業家の卵へのアドバイス役も頼んでいる。その様子が、夜の報道番組『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京系)で放送された。渡邉氏の指導を受けていた受講生は、教祖様の声をいただいたかの如く真剣そのものであった。渡邉氏の隣には社会起業大学の学長が座っていた。

 この番組が放送された頃は、渡邉氏がテレビにもよく顔を出し「ベンチャーの旗手」「一代で外食チェーンを築き上げたやり手」というイメージが持続していた頃である。同大学もメディアでよく取り上げられる渡邉氏の、このイメージを活用しようとしていたのではないだろうか。

 しかし、「事業を通して社会に貢献しよう」と訴えていた教祖様が、今や「ブラック企業」の権化として吊るし上げられているのだから皮肉な話だ。

●素顔の渡邉氏は

 筆者は渡邉氏にインタビューしたことがある。渡邉氏をモデルにした小説『青年社長』(角川文庫)を書いた作家・高杉良氏からも長時間、渡邉氏について話を聞いた。実は、この小説を書くに当たり、高杉氏は渡邉氏から日記を入手した。それだけに、渡邊氏の心の奥深くまで入り込めたのだろう。高杉氏の話を聞いた後に渡邉氏に会った。インタビューといっても、渡邉氏はほぼ一方的に話していた。その姿に触れ、「並外れた頑張り屋」であり、企業家に必須とされる「アニマル・スピリット」が溢れる人物であると痛感したものだ。

 「外食チェーンステーキハンバーグ&サラダバー けん」などを運営するエムグラントフードサービス社長、井戸実氏 がツイッターで、ワタミへの“ブラック批判”に怒りをぶちまけ、話題になっている。 アニマル・スピリットを体現した人ゆえのアニマル・スピリット応援歌を送ったのだろう。同じ外食チェーンの大先輩であるだけに、筆が走ったのかもしれない。

 筆者は、これまで対話してきた多くの著名な創業者から、同じような「溢れんばかりの情熱」を感じた。そのような情熱は「自分の理解」と「他者(従業員など)の理解」が一致したとき良い効果を発揮する。しかし、「私がやってこられたから、君にもできるはずだ」と考えたとき、実力、価値観の違う人は拒絶反応を起こす。本当の名経営者は、この点をよく理解し、行動していた。

 筆者も、大学生を教えていると「この国はどうなっていくのだろうか」と心配になることが少なくない。今こそ、日本人は金太郎さんではないが「優しくて力持ち」にならなくてはならない。優しくはなってきているが、力に欠けているような気がしてならない。現在の渡邉氏には数々の問題点はあるが、氏の強調している「必死に働け論」が理解できないわけではない。そう言うと、ブラック企業を擁護しているように聞こえるかもしれないが、決してそうではない。より深く考えたい人、時間のある人には、以下の論を読んでもらいたい。