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宅急便のヤマト、独走の裏側と“悩み”〜広がる自社物流への対抗と、企業物流参入の狙い

 市場拡大を牽引しているのがネット通販だ。物流業界担当の証券アナリストは、「このネット通販で戦う上でも、ヤマトのサービス品質の高さが有利になっている」と、次のように説明する。

「通販利用者は、不在時でも迅速に注文品を受け取れる仕組みがあることで満足感を高める。配送に対する満足感の高低で、通販会社への評価が分かれる。それは通販品の売れ行きも左右する。これが、荷物受け取り側の利便性を追求してきたヤマトが通販会社から選ばれるゆえんでもある」

 アマゾンが佐川からヤマトに鞍替えしたのも、これが一因と言われている。

●ヤマトの“頭痛の種”

 こうして、一見すると「わが世の春」のヤマトだが、その足元をすくいかねないのが“ヤマトの頭痛の種”とも言われる「自社物流」の流れだ。

 その典型が、今やヤマトにとって上得意のアマゾンにほかならない。アマゾンが全国各地に配送倉庫の自前設置を進めているからだ。アマゾンが配送倉庫網を完成し、狭いエリアの配送体制を確立すれば、佐川より安い運賃で配送請負をしてくれる地場の中小運送事業者はいくらでもいる。

 通販会社の売上高に占める物流経費は11〜13%。メーカーの6〜7%に比べ、倍近く高い。だからこそ、物流経費の削減は通販会社共通の経営課題になっている。

 このため、楽天もフランスの物流会社を買収し、在庫管理や配送業務を自前化する準備を進めるなど、通販業界の「自社物流化」の動きがこのところ顕著になっている。セブンミール、カクヤス、オフィスグリコなどは事業開始当初から「自社物流」を貫いている。

 ヤマトHDの木川眞社長は、「自社物流の動きは一部であり、物流をアウトソースで効率化し、在庫を圧縮するのが物流市場の流れ」(12年11月27日付「週刊ダイヤモンド」)と、平静を装っている。

 だが「内心は相当な危機感を感じているはずだ。それを如実に物語っているのがバリュー・ネットワーキング構想だ」と業界関係者は看破する。同構想の狙いは、企業物流への本格参入にあるからだという。

 同社は現在、全国70カ所にある基幹配送拠点に貨物を収集、1日1回、拠点間で夜間輸送している。これではどんなに早くても、広域輸送は翌日配達になる。

 これが、冒頭の羽田CGをハブとする新物流体制では、24時間の常時ゲートウェイ間輸送により「止まらない物流」を行い、広域での当日配達を実現できる。結果、「生もの食品」も通販で販売できるようになる。これにより、通販業界の自社物流の流れを弱められると見ているようだ。また、羽田CGと沖縄国際物流ハブの連携でアジアへの翌日配送が実現でき、間違いなく宅配便市場の拡大に繋がる。

 その一方で、無料配送地域拡大に努めている通販各社の値下げ圧力が強いため、現在の高収益をいつまで保持できるかはおぼつかない状況にある。長期的に見れば宅配便市場の成長頭打ちも避けて通れない。したがって「業績が好調な今のうちに、宅急便に次ぐ収益事業の育成が、同社の重要経営課題になっている」(証券アナリスト)とみられている。

 そこで、同社が狙っているのが、宅急便事業で蓄積したノウハウを生かした企業物流への本格参入になる。実際、羽田CGの運用開始と同時に、同社は全国の半導体製造装置部品メーカー約300社から東京エレクトロン向け部品搬送の一括受託を明らかにしている。加えて、自動車、家電など製造業大手の企業物流営業強化も明らかにしている。

 要するに宅急便のノウハウを生かし、「宅急便のヤマト」から「企業物流のヤマト」へ脱皮しなければ、次の成長戦略を描けない地点にヤマトは来てしまったといえるが、しかし、そこには企業物流の巨人・日本通運が立ちはだかっている。

 かつては「郵便小包」で宅配便市場を支配していた現在の日本郵便を宅急便で打ち破ったヤマトが、今度はバリュー・ネットワーキング構想で日本通運を打倒できるのか?

 物流業界では、ヤマトの「新イノベーション神話」への注目が高まっている。
(文=福井 晋/フリーライター)

BusinessJournal編集部

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