羽田CGは同社が1400億円を投資して建設した、国内最大級の総合物流施設。最新の物流設備を導入、24時間・365日体制で、貨物の発送・入庫作業の同時処理と仕分けの自動化を実現しているのが特徴。これにより、倉庫に貨物を滞留させることなく、国内およびアジアの物流をシームレスに行えるようになっている。
同社は羽田CGの運用を開始すれば、「受け手のニーズに合わせたジャストインタイム配送が実現できる」と説明している。
とはいっても、ジャストインタイム配送は羽田CGのみで実現できるわけではない。羽田CGをハブに「厚木ゲートウェイ」(13年8月11日運用開始)、関西・中部2カ所のゲートウェイ(16年までに運用開始予定)、「沖縄国際物流ハブ」(12年にオープンした沖縄県の経済特区施設)の4施設との連携運用が前提になっている。
このジャストインタイム配送実現は、同社が今年7月3日に発表した「バリュー・ネットワーキング構想」に基づいている。この構想によると、羽田CGに1400億円、厚木・関西・中部の3ゲートウェイに各200億円の総額約2000億円を投資、「止めない物流」の実現によりサービスを強化するとしている。同社は、「1929年の路線便事業と76年の『宅急便』事業に続く3回目の事業イノベーション」だと胸を張る。
だが、同社が約2000億円の巨額投資をしてまでサービス強化を図ろうとしている背景には、宅配便市場を独走する同社ならではの悩みが見え隠れする。
物流業界関係者は、「バリュー・ネットワーキング構想には多機能スーパーハブ(羽田、厚木、沖縄)、止めない物流、クラウド型物流ネットワークなどの華やかな文言が躍っているが、実態は運輸最大手・日本通運への『ガチンコ勝負宣言』にほかならない」と断言する。
●大口荷主が佐川からヤマトへ
昨春、通販大手のアマゾンジャパンが宅配業務の委託先を佐川急便からヤマトへ変更した。荷主の業務委託先変更は、別に珍しいことではない。だが、それがネット通販大手のアマゾンという超大口荷主だったことから、「何があったのだ?」と業界内で話題になった。
この話を追ってみると、佐川からヤマトへ委託先を変更した大口荷主は、アマゾンだけではなかった。「ここ2年ほどの間に、佐川の大口荷主がヤマトへ流れる動きが顕著になってきた。今や、宅配便市場でのヤマトの独走は明白」(業界関係者)という。
ヤマト独走の要因は、ライバルの自滅的な衰退にある。
かつてはヤマトの壁となって立ちはだかっていた日本郵便は、ゆうパックと日本通運から譲受したペリカン便の統合に失敗、宅配便シェアを10.9%(12年度、以下同)に低下させ、今や昔日の面影もない。
日本郵便が凋落した後、「宅配便の双頭の鷲」と呼ばれていた佐川も然りだ。シェアこそヤマト42.7%、佐川38.9%とまだ拮抗しているものの、業績は03年以降、差が開く一方だ。11年度の営業利益は、ヤマトHDの667億円に対し、SGホールディングス(佐川急便の持ち株会社)は303億円で、その開きは2倍以上もある。
ヤマトは個人荷主の宅配便事業からスタートし、個人需要を開拓しながら成長してきたのに対し、法人営業が得意な佐川は法人需要により成長してきた。98年の宅配便事業参入後も、低価格を武器にした「モーレツ営業」で法人の宅配便需要を開拓、ヤマトを追い上げていった経緯がある。佐川はターゲットも荷主開拓法もヤマトと対照的だった。
しかし、低価格とモーレツ営業で成長してきた佐川は、宅配便事業を収益性の低い事業に育ててしまった。これに危機感を抱いた同社は、2年ほど前からネット通販などの大口荷主に値上げ要請をしたり、荷物の大きさ制限をするなどの取引条件改定を求めるようになった。「それを嫌った荷主がヤマトに流れた」(業界関係者)というわけだ。
●高いサービス品質の秘密
こうしたライバルの自滅的衰退を尻目に、ヤマトのみが宅配便事業で高収益を維持しながら、シェアを拡大し続けている要因は、サービス品質の高さにあるといわれている。業界関係者は「宅配便のサービス品質とは、荷主の満足度ではなく、荷物を受け取る側の満足度。日本郵便も佐川も、これを理解していなかった」と指摘する。
ヤマトのサービス品質を支えているのが、全国約4000カ所の配送拠点数だ。これは佐川の10倍強、日本郵便の約4倍に上る。この配送拠点数の圧倒的な差が、2時間刻みの時間帯指定配達、不在時再配達の迅速対応を可能にし、荷物受取側の満足度の高さに繋がっている。
近年は、05年に開始した「宅急便e-お知らせシリーズ」(荷物の配送状況を受け取り側にメールで通知)、06年に開始した「宅急便店頭受取りサービス」(不在で受け取れなかった荷物を、指定したコンビニで受け取り)、07年に開始した個人会員制サービス「クロネコメンバーズ」などのサービス充実により、さらなる満足度の向上も図っている。
荷物受け取り側の利便性を戦略的に追求してきたヤマトは、個人荷主の拡大にも成功してきた。佐川が個人荷主の貨物発送がほぼゼロなのに対し、ヤマトは取扱貨物数の10%強が個人荷主からの発送になっている。これが高収益の一因にもなっている。なぜなら、個人荷主の貨物は、法人荷主の貨物と異なり、常に「定価販売」ができるからだ。それが、宅配便1個当たりの平均単価がヤマト600円、佐川466円と、実に22%強の差となって表れている。
宅配便は国内で数少ない成長市場。この10年間で、28億個から34億個へと21%強も市場が拡大した。