あなたは「名文」に出会ったことがありますか? 「名文」は大人、子どもという垣根を越えて、その人の心にじんと響くもの。そして、ずっと心の中に残り続けるものです。
2010年に出版された後、少しずつ読者が増えていき、数々の著名人たちも涙したという『心に響く小さな5つの物語』(致知出版社/刊)が今、話題になっています。
この本には、致知出版社の社長である藤尾秀昭さんによって書かれた、実話を元にした5つの掌編が収録されています。また、俳優であり画家の片岡鶴太郎さんによる挿絵が、物語を彩ります。
第二話「喜怒哀楽の人間学」では作家・西村滋さんの幼い頃のエピソードが優しい文体でつづられています。
少年は、両親の愛情をいっぱいに受けて育てられてきました。特に母親の愛情は近所でも話題になるほどでした。ところが、ある日、母親は少年の前から姿を消し、庭に造られた粗末な離れにこもってしまいます。少年は母恋しさに、「近づくな」という忠告も聞かず、その離れに近づきます。
しかし、そこで少年が見たのは、かつての面影もなくなった、荒れ狂った、鬼のような姿の母親でした。少年は母親を憎悪するようになり、少年が6歳の頃に母親は亡くなりました。
父親は再婚し、少年は継母に愛されようとしますが、うまくいきません。弟が生まれ、少年はのけ者になり、さらに9歳のときに父親も亡くなります。そして、家を飛び出した少年は施設を転々とするようになり、非行に走って少年院に入られてしまいます。
ある時、そんな少年に面会者が訪れます。その人は、母親が亡くなったときに、泣きながら棺の中の母親の顔を見せようとした、家政婦のオバサンでした。
そしてオバサンはなぜ母親があのような姿になったのか、全てを話しました。実は母親は結核に冒され、余命幾許もない状態だったのです。そして、こう言ったといいます。
「幼い子が母と別れて悲しむのは、優しく愛された記憶があるからです。憎らしい母なら死んでも悲しまないでしょう。あの子が新しいお母さんに可愛がってもらうためには、死んだ母親なんか憎ませておいたほうがいいのです。そのほうがあの子は幸せになれるのです」
少年は、母親の本当の愛に驚き、涙を流しました。それが、少年を立ち直せる大きなきっかけになったのです。
著者はこの物語を受けて、「喜怒哀楽に満ちているのが人生である」とし、喜怒哀楽の向こうにあるものに思いを馳せつつ人生を歩んだとき、人生は深みを増すと述べています。
他にもニューヨーク・ヤンキースのイチロー選手や重度の脳性マヒを患った少年が書いた一篇の詩などがエピソードとして取り上げられています。
本書は今年1月、歌舞伎役者の市川海老蔵さんが自身の愛読書としてブログで「読んでいて涙が止まりませんでした」(1月17日更新『愛読書からの』エントリより)と紹介し、大きな反響を呼びました。
他にも、挿絵を描いた片岡鶴太郎さんや、書道家の武田双雲さんもコメントを寄せています。
本作に収録されているエピソードは、人間が大きく羽ばたく瞬間をしっかりと捉えたものばかりです。また、「15分で読める感動実話」と帯文にもあるように、77ページとそう厚くなく、読書が苦手な人でも最後まで読めるようになっていることも、多くの人が手に取っている理由の一つかもしれません。
(新刊JP編集部)
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※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。