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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第22回

クーポン利用は「割に合う」のか?値引きか箱ティッシュ無料贈呈、どちらが集客効果高い?

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ユニクロのボックスティッシュ(「ユニクロ HP」より)
 数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。

「すべての人間は経済合理的に行動する」というのがミクロ経済学の基本前提である。その一方で、「かならずしも人は経済合理的に行動するわけではない」という基本前提に立つのが行動経済学である。そして現実の世界を眺めると、どうも行動経済学のほうが正しい。それを身近なエピソードから論証してみたい。

 先日、事務所で使っているボックスティッシュが空になったので、棚の奥から新しいものを取り出してきた。手に取ると、「ああ、あれか」と自然に笑みがこぼれた。全面にユニクロのロゴが入っていて、つい数カ月前にユニクロの創業感謝祭で無料でもらったものである。なぜか筆者はこの日のことをよく覚えている。

 ちょうどこの夏に着るのにぴったりで、大好きなハワイをモチーフにしたデザインのUT(ユニクロのTシャツ)がこの時、週末限定価格で売り出されていた。特に創業感謝祭のことは気に留めずに、イオラニハワイアンクラッシックスのロゴの入ったTシャツを3枚手に持ってユニクロのレジに並んだ。

 レジの列からぼんやり眺めていると、精算を終えた時に3箱入りのボックスティッシュをもらって帰る人と、そうではない人がいるのに気づいた。「あれ?」と思ってレジの後ろのほうを見ると、「創業感謝祭。3000円以上購入の方にボックスティッシュを差し上げています」との貼り紙が目に入った。

 このような時に、社会的地位も高く年収も1000万円台を常に超えてきた、いい歳をしたセレブなビジネスパーソンはどう反応するものなのだろうか?

 サンプル数たったひとつで恐縮だが、筆者の場合は瞬間的に、「欲しい!」と思った。次の瞬間、左脳が気付かぬうちに計算を始めていた。「手に持っている限定価格のTシャツが990円×3枚だから2970円。ちょっと足りないかも。いや待て、ユニクロは4月から税引き表示に変えている。税込なら支払い総額は3207円と3000円を超えるはず」

 はじき出された計算結果を前に、私の心臓は急激にどきどきし始めた。「税込か税引き、どっちだろう?」などと考えているうちにすぐに筆者の番が来た。レジに商品を差し出す際に、内心のどきどきを隠し、いつも仕事の時に使う落ち着いた低音の美声でレジの女の子に静かに訊ねた。

「3000円のプレゼントというのは税込ですか?」

 すると店員はにっこり笑って、

「はい。税込の金額で3000円を超えたお客様にボックスティッシュをお配りしています」

と答えてくれた。落ち着きはらって3207円を支払うと、Tシャツ3枚とボックスティッシュ3箱を手にすることができた。この時もし店員が「いえ税引きです」と答えていたら、おそらくその足で売り場に戻ってもう一枚990円のTシャツを手にしてレジにUターンしていたことだろう。そのような手間をかけずに思いがけず大きな箱を手にし、満面の笑みを浮かべて帰路についたのだった。