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広木隆「僕にも言わせろ~真説 経済のミカタ」(11月8日)

日銀追加金融緩和は“画期的”経済再生策?デフレ脱却と企業の利益率向上を後押し?

文=広木隆/マネックス証券チーフ・ストラテジスト
日銀追加金融緩和は“画期的”経済再生策?デフレ脱却と企業の利益率向上を後押し?の画像1日本銀行本店(「Wikipedia」より/Wiiii)

 国内系、外資系運用会社を渡り歩き、株式投資の最前線に20年以上携わった後、現在はマネックス証券チーフ・ストラテジストを務める広木隆氏が、「経済のミカタとカラクリ」をわかりやすく解説します。 

 10月31日、日本銀行追加金融緩和を決定し、「ハロウィーン緩和」と呼ばれるサプライズに市場は色めき立った。その直後から株価は急伸、円安にも拍車がかかり、日経平均株価は1万7000円台を回復、ドル円相場は1ドル115円をつけた。

 今回の追加緩和のメニューの中でインパクトがあったのはETF(上場投資信託)の買い入れ額を増加させるという点である。ETF購入は流動性の観点から金融緩和の「量」が賄えないのではないか、とよく指摘されるが、重要なのは(逆説的だが)量的緩和の「量」そのものは関係ないということである。

 インフレ目標値を設定した上でさまざまな経済政策を実行すべきとの考え方を批判する、いわゆる反リフレ派は、「おカネの『量』を増やしたからといってインフレになる、あるいは景気が良くなる、という理論も実証もない」として、量的金融緩和を批判する。その通りである。だからなおさら、「何兆円マネタリーベース(資金供給量)を増やせばいい」という有効な「金額」はない。すなわち、量的緩和において金額は問題ではないということになる。

 では何が重要か? それは中央銀行の意志である。「絶対にデフレから脱却するのだ」という強い意志を市場に示すことである。そのためにはなんでもやる、という姿勢を示すことが重要である。かつて欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁は、「ユーロを守るためにはなんでもする」と述べて(述べただけで)欧州債務危機を鎮静化させたが、その手腕は「ドラギ・マジック」と呼ばれた。

 今回の日銀の追加緩和がこれだけ市場の反応を呼び起こしたのは、まさにこの中央銀行の姿勢が市場に評価されたからにほかならない。「量」=「金額」は大したことはなく、むしろ昨年の異次元緩和のほうが「額」のインパクトはあった。今回は、このタイミングで市場の裏をかき、やれることはなんでもするという姿勢が評価されたのである。

ETF追加購入の利点

 ETF購入は、金融緩和の出口政策を考えた時に難点があるとの指摘がある。国債は自動的に満期償還を迎えるが、ETFは出口に際して日銀が売却しなければならない、それはリスキーだ、という批判であるが、杞憂であろう。

 そもそも、出口政策を考えなければならない時とはどのような時か? 金融緩和の行き過ぎでマネーがだぶつきインフレが高進するような状況、バブルの兆しが懸念されるような状況だろう。そのような状況では誰もが株を買おうと株式市場も過熱しているだろうから、日銀によるETF売却など問題なく吸収できる。むしろ過熱を抑える「冷やし玉」を握っているほうが、バブルの制御という意味では安心ではないか。

 さらにもうひとつETF購入の利点がある。国債購入による量的緩和は、出口を考えるような状況では、アベノミクスが成功して金利は上昇しているはずである。そうなれば大量に買い込んだ国債に評価損が生じる。ところがETFの場合、アベノミクスが成功すれば株価は上昇しているはずだから、日銀は利益を得ることになる。資産購入による量的緩和でデフレ脱却と経済再生を狙うならば、国債よりもETFのほうが目的整合的である。

企業の利益率向上にも寄与

 ETF購入に関しては、もうひとつ特筆するべき点がある。それは今回から新東証株価指数であるJPX日経400に連動するETFも購入対象としたことである。今回の日銀の追加緩和は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産構成見直しの発表と同じタイミングであったことから、それとの合わせ技なのではないか、との声もあるが、であればこそ政府の成長戦略=構造改革を後押しするものともいえるだろう。

 今年6月、政府は改訂版成長戦略で企業の稼ぐ力を取り戻すと謳い、その目標に海外と同水準のROE(株主資本利益率:株主資本が企業の利益にどれだけつながったのかを示す指標)達成を掲げた。その意味で、ROEの高い企業から構成される指数であるJPX日経400連動のETF購入の意義は大きい。これでさらにJPX日経400への注目度が高まり、多くの企業がこの指数に入ることを目指すようになるだろう。その結果、日本企業のROEが改善されることが期待される。量的緩和をしながら企業の利益率改善も促すというのは画期的な策である。

 これこそまさにQQE=量的質的緩和と呼ぶべきものだ。投資家もJPX日経400構成銘柄を買うだろう。そのため、現時点ではJPX日経400と東証株価指数(TOPIX)に目立ったパフォーマンスの差はついていないが、これから徐々に差がついてくることが予想される。
(文=広木隆/マネックス証券チーフ・ストラテジスト)

広木隆/マネックス証券チーフ・ストラテジスト

広木隆/マネックス証券チーフ・ストラテジスト

1963年生まれ。上智大学外国語学部卒業。87年大和証券に入社。その後、ファンド・マネージャーを志し、資産運用業界に転身。富士投信投資顧問、フィデリティ投信、JPモルガン・アセット・マネジメントなど、国内系、外資系の運用会社を渡り歩き、株式投資の最前線に20年以上携わる。2010年9月より現職。
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Twitter:@TakashiHiroki

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