昨年、総務省で開催されたタスクフォースの結論を踏まえ、携帯電話各社が低容量のプランを準備している。ソフトバンクはすでに、1GBのデータ定額パックを発表。KDDI(au)も「カミングスーン」(KDDI、田中孝司社長)としており、間もなく公表される見込みだ。NTTドコモもこれに追随することは確実で、ファミリー利用を踏まえたプランになる可能性がある。3社とも、おおむね総務省の方針に沿った料金プランを打ち出したというわけだ。
ソフトバンクの場合、1GBのデータ定額パックの料金は月額2900円。本来は5GB以上のデータ定額パックとしか組み合わせられなかった、基本使用料が割安な「スマ放題ライト」も組み合わせることができ、その場合の料金はトータルで4900円となる。総務省で示されていた5000円以下という基準をクリアした格好だ。データ通信をあまり使わないスマホのライトユーザーなら、このプランに変えればお得になる可能性がある。
とはいえ、最近ではユーザーのデータ通信量は増加傾向にある。1GBのプランで十分という人は、少なくなっているのが現状だ。選択肢が増えるのは歓迎すべきことなのかもしれないが、自分が使うデータ量をきちんと把握しないと、かえって割高になってしまうおそれもある。目先の金額につられて、月の途中でデータ量が足りなくなり、追加でデータ量を購入するのは本末転倒だ。
特に若年層は、1GBではまったくデータが足りないおそれがある。実際、今年の春商戦は、学割が1つのトレンドになっている。これまでの学割は、基本使用料などの料金値引きに主眼が置かれていた。これに対して今年の学割は、「データ量の追加」が3社の競争軸になっている。
大容量のデータ通信に対するニーズの高まり
データ量の追加は、まずソフトバンクが発表した。この際の条件は、3GBを3年間というものだった。これに対して、同じ日の午後、auは5GBを25歳までずっとという学割をぶつけてきた。条件面で完全に劣っていたソフトバンクは、あわててauに対抗。3GBを倍増させ、6GBにキャンペーン内容を改めた。ドコモも、すでに実施していた「U25応援割」と合わせて、6GBを3年間追加するという学割を発表している。
auが発表したデータによると、10代では72.1%が、20代では60.1%が8GB以上のデータを毎月使いたいと考えているという。年齢層が高くなるに従い、この割合は下がっていくものの、40代でも41.5%と大容量のデータ通信に対するニーズが高いことがわかる。実態を見ても、10代の平均利用データ量は5.19GB、20代で4.96GBと、平均の3.59GBを大きく上回っているのだ。
この傾向は、auだけのものではない。ソフトバンクの宮内謙社長も「若者の多くが、データ容量が少ないから超えないようにしようと意識している」と語り、学生の4割以上がスマ放題の5GBや、ホワイトプランの7GBを超えているという調査結果も明かした。YouTubeやニコニコ動画といった動画の浸透や、ソーシャルゲームなど、データ通信を多用するコンテンツが増えていることが、その一因だろう。
家庭によって状況は異なるが、Wi-Fiが思った以上に浸透していないという事情もありそうだ。昨年7月に総務省が公表した「通信利用動向調査」では、50%強しか浸透が進んでおらず、インターネットに接続する手段として、モバイルネットワークの重要性が増していることがうかがえる。学校など、Wi-Fiが利用できない環境に長時間いることも、データ通信量が増えてしまう原因といえるだろう。
また、端末の画面解像度や処理能力が上がり、そこに合わせてつくられるコンテンツもデータサイズが大きくなりがちだ。アプリを多く入れていると、そのアップデートだけで数百MBを使ってしまうこともある。
このように見ていくと、むしろユーザーのニーズが高そうなのは、大容量のデータ通信を、より安くすることといえるだろう。選択肢が増えるのは歓迎できる一方で、あえてコストをかけてまで1GBの料金プランを新設する意義があるのかは、疑問が残るところだ。総務省はタスクフォースに若年層の意見を取り入れるなど、利用者の実態をもっと反映させることも必要だったはずだ。
(文=石野純也/ケータイジャーナリスト)