私は多くの日本企業の改革を妨げている最大の元凶は、「しがらみ文化」であると考えている。
変化には2つの変化がある。ひとつは改善(improvement)で、基本的に現状を大幅に変えず、少しずつ手直しをして変えるということである。そこには基本的に、「継続」がある。もうひとつの変化は改革(innovation)である。現状を否定して破壊した後に何か新しいものを創造するということで、これは「ガラガラポン」「破壊」の世界である。企業経営にとって改善はもちろん重要だが、世の中の変化が、大変、激変、急変の時代のなかでは改善では間に合わず、改革が求められる。
改革を妨げる最大の敵が「しがらみ文化」である。中根千枝・元東京大学教授の著書に『タテ社会の人間関係』(講談社)という名著がある。
日本の文化の根底には、村社会の文化から生まれた長幼の順とか、年功序列などという「タテの文化」がある。長を立てて村の和と秩序を保つという「和をもって貴しとなす」である。企業には和やチームワークが大切なことはいうまでもないが、環境が急激に変化している「大変の時代」のなかでは、企業は時には改善の域を超えた改革を迫られる。
ところが大方の日本企業は、改善には長けてはいても改革が苦手である。社長が、業績が悪い子会社を閉鎖しようとしても、子会社の社長が昔の先輩だったり、ましてや上司だったりすると、つい「しがらみ症候群」が邪魔をして改革の矛先が鈍る。思い切った改革ができなくなる。結果として限界的小会社の温存を許容するという破目に陥ってしまう。
『「しがらみ」を科学する』(筑摩書房)の著者、山岸俊男氏は「しがらみをつくるのは人と人との関係性であり『しがらみ』とは、自分の意図を超えて自分を拘束してくるもの」と述べている。言い得て妙である。
「しがらみ文化」からの脱却
「しがらみ症候群」から脱却して改革を実現するための方法のひとつが、「新しい血の導入」である。自社のしがらみとは無縁の人間を外から招聘して経営の采配を振らせることにより、今までのしがらみにどっぷりつかっていた人間にはできないレベルの改革を果たすという一種の荒療治である。アスピリンや絆創膏による応急手当ではなく、大量の出血を伴う(可能性の高い)手術である。