自己資本を食い潰す「潤沢な」株主利益還元の罠…過度のROE経営が企業を滅ぼす
前回は、ROE(自己資本利益率:後述参照)の分子となる当期純利益について述べましたが、今回は分母となる自己資本に関して2つのポイントを紹介したいと思います。まずはROE改善に関連する「割り算の罠」。次に、自己資本がパラメーター(「媒体変数」が正しい和訳ですが、そのまま「パラメーター」で良いと思います)となるエクイティ・スプレッド(ROEと株主資本コストの差)と残余利益(エクイティ・スプレッドと自己資本の掛け算)という財務指標のどちらを重視すべきかについて考察していきます。
ROEが重視される昨今、その分母となる自己資本は「ROEを悪化させる邪魔者」のような扱いを受けているような印象がありますが、本稿で、実は企業価値創造の源泉であるという当たり前のことを再認識していただきたいと思います。
自己資本の基礎知識
ここで自己資本の基礎知識をおさらいしましょう。まずは、自己資本は財務諸表のどこを探せばよいのでしょうか。貸借対照表を見ても「株主資本」や「純資産」はありますが、残念ながら「自己資本」は見当たりません。
そこで、決算短信の1ページ目を見ると、連結財政状態の参考として数値が掲載されています。この数値が、自己資本比率や自己資本利益率(ROE)の算出に利用されています。ではこの数値がどのように計算されているかというと、貸借対照表の純資産の部にある「株主資本合計」に「その他の包括利益累計額合計」を足し合わせます。または、純資産合計額から「新株予約権」と「少数株主持分」を差し引くことによっても計算が可能です。
次に自己資本の変動要因についてですが、連結株主資本等変動計算書を見ればよく理解できます。議論を単純化するために「その他の包括利益累計額合計」の項目を無視すると、当期純利益、配当、そして自己株式の取得が自己資本の三大変動要因となります。当期純利益は自己資本を増加させ、配当及び自己株式の取得が減少させることになります。ですから、昨今の株主還元政策の強化は、当期純利益による自己資本増加の影響を軽減することが目的のひとつだと考えられます。
たとえば、金属加工機械大手のアマダの「利益100%還元」では、当期純利益の全額が、配当もしくは自己株式の取得により株主に還元されることになり、「その他の包括利益累計額合計」の項目を無視すると、自己資本に変化はありません。