自己資本を食い潰す「潤沢な」株主利益還元の罠…過度のROE経営が企業を滅ぼす
そもそも企業価値が将来生み出されると期待されるキャッシュフローの現在価値であるとすれば、自己資本を圧縮したところでキャッシュフローが拡大することもないため、ROEが改善したとしても企業価値創造を伴うことはないのです。また、自己資本を圧縮し続ければ、前述したバッファが縮小するためリスク耐久度が減少し、リスク投資も実行しにくくなります。これでは企業価値創造どころの話ではなく、縮小均衡へ突き進むことになってしまいかねません。
残余利益が縮小均衡への防波堤
結局、「割り算の罠」の問題が生じるのは、割り算に基づくパーセントベースの指標で企業を相対的に評価しようとすることが原因です。企業価値にせよ、時価総額にせよ、絶対額で測定されるものであることを考えれば、パーセントベースの指標の大小を議論したところで必ずしも有効とは限りません。たとえば、ROEが5%の大企業が15%のベンチャー企業を買収することは、企業価値の差を考慮すればたやすいことなのです。
そこで、縮小均衡を回避すべく絶対額ベースの指標として提案したいのが残余利益の活用です。残余利益は、エクイティ・スプレッドに自己資本を掛け合わせて算出されますので、まずはエクイティ・スプレッドの説明をします。
エクイティ・スプレッドは前出の伊藤レポートで紹介されたこともあり注目されています。この指標は、ROEと株主資本コストの差であり、エクイティ・スプレッドがプラス(マイナス)、つまりROE>株主資本コスト(ROE<株主資本コスト)であれば企業価値が創造(破壊)されていることを意味します。
なぜならば、株主資本コストは投資家が要求するリターンであるため、ROEが株主資本コストを上(下)回れば、投資家の期待に応えた(応えていない)ことになるからです。しかし、エクイティ・スプレッドの欠点は、パーセントベースの指標であり、企業が絶対額としてどの程度の価値を創造したのかは示してくれないことです。また、ROEがパラメーターとなるため、結局のところ、自己資本を圧縮してROEを高めることによりエクイティ・スプレッドを改善しようとする「割り算の罠」の問題は解決されないままなのです。
そこで出番となるのが残余利益です。残余利益は、以下の公式が示すように、エクイティ・スプレッドに自己資本を掛け合わせるため絶対額ベースの指標であり、創造された企業価値の額を測定します。