「三菱自動車とはシナジー効果が得られる余地が大きいことから、株価の下落をチャンスととらえた」(日産自動車・カルロス・ゴーン社長兼CEO)
燃費偽装事件で窮地に陥っていた三菱自に救いの手を差し延べたのは、「被害者」の立場を強調していた日産自動車だった。なぜ日産は、3度にわたる不祥事でブランド毀損が確実な三菱自をグループ化するのか。そこには、利に聡いゴーン氏のしたたかな戦略が見え隠れする。
三菱自が燃費偽装事件に関する社内調査の結果を国土交通省に持参したものの、「内容が不十分」として再報告を求められた5月11日の深夜、「三菱自と日産が資本提携」というニュースが駆け巡り、自動車業界は驚愕に見舞われた。
翌12日、横浜市の日産グローバル本社に近い会議室で、日産のゴーン氏と三菱自の益子修会長兼CEOが揃って、両社が資本提携を結ぶことで合意したと正式発表した。三菱自の燃費に関する不正事件が発覚してから約3週間での電撃提携となった。
日産は三菱自が発行する第三者割当増資を引き受け、三菱自株式の34%を2370億円で取得して筆頭株主となることで合意した。ゴーン氏は「(日産と三菱自の提携は)両社にとってウィン・ウィンの内容であり、大きなシナジー効果と成長のチャンスを約束するもの」と述べた。一方の益子氏は「日産との提携は信頼回復や経営の安定を目指す上で重要な道筋になる」と述べ、日産の支援を受けて信頼回復を本格化させる意向を示した。
三菱自が製造する軽自動車4モデルの燃費偽装が発覚したのは4月20日だ。それから約3週間の短期間で、日産は燃費偽装問題の全容も解明されていないなか、不祥事で企業イメージが失墜した自動車メーカーに2370億円投資することを決めた。ある業界関係者は「ゴーン氏のシナリオどおりにコトが進んだ」と見る。
提携の交渉を開始した時期
日産と三菱自の戦略的アライアンスを発表した記者会見で両トップが言葉を濁したのは、提携の交渉を開始した時期だ。益子氏は「日産と三菱自の関係が始まったのは11年で、その後もほかの協業の可能性について検討してきた。いつかは資本提携も考えられるとゴーンさんとは話してきた。燃費の問題で早まったが自然の流れで決まった。資本提携の話はずっとあった」と述べ、具体的な申し入れについて明言を避けた。ゴーン氏も「軽自動車以外の協業を非公式に検討してきたが、急いでいたわけではない。突如、危機的な状況になったので(提携話が)加速された」としている。