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金子智朗「会計士による会計的でないビジネス教室」

隠蔽で死者続出…三菱自、不正を不正と思わぬ企業文化、15年前に1度死んでも治らず

文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表
隠蔽で死者続出…三菱自、不正を不正と思わぬ企業文化、15年前に1度死んでも治らずの画像1三菱自動車のロゴ(「Wikipedia」より/Fry1989)

 三菱自動車工業の燃費データ不正が大きな問題となっている。発覚したのは当初、軽自動車4車種だったが、その後の調べでスポーツ用多目的車(SUV)のRVRでも不正が発覚した。さらに、この原稿を書いている最中にも、プラグラインハイブリッド車(PHV)のアウトランダーPHEVでも、必要なデータを測定せず机上で計算していた疑いがあるというニュースが入ってきた。一体どこまでやらかしていたのか、予断を許さない状況だ。

 三菱自といえば、かつて悪質なリコール隠しで刑事告訴までされた会社だ。不正を不正とも思わぬその姿勢は、会社に染み付いた企業文化といわざるを得ない。

あまりにブラックな三菱自動車のカルチャー

 三菱自がいかなる会社なのか、ここで簡単に振り返っておこう。

 同社は、かつてはトヨタ自動車、日産自動車、ホンダを追い上げる国内第4位の自動車メーカだった。ところが2000年にリコールにつながるクレーム情報を社内で隠蔽していたことが内部告発により発覚。隠蔽は1977年から23年間にわたり、対象は10車種以上、約69万台にのぼる。

 リコール隠しの発覚で同社の信頼は地に落ち、販売台数は激減。当時資本提携関係にあったダイムラー・クライスラーから最高経営責任者(CEO)を迎え入れて経営再建を図るが、2002年1月に神奈川県横浜市で、走行中の同社の大型トラックから外れた直径約1メートルの前輪が歩行中の母子を直撃し、母親が死亡する事故が発生。さらに同年10月には、山口県の高速道路を走行中の同社トラックからプロペラシャフトの一部が脱落し、制御不能となったトラックが道路脇の構造物に激突。トラック運転手が死亡する事故が起きる。

 筆頭株主であったダイムラー・クライスラーもさすがに愛想が尽きたのか、04年に財政支援の打ち切りを発表。同社から迎え入れたCEOも任期を待たずして辞任した。05年には、リコールにより対策を実施したはずの車種で火災事故が複数件発生している。

 三菱自とはこのような会社なのである。このような会社が今度は燃費データの不正というわけだ。不正が発覚したアウトランダーPHEVは、リコール隠しで失墜した三菱自ブランドの復活を賭ける主力車と位置付けられていたというから呆れるばかりだ。

企業文化は死んでも治らない?

 三菱自に限らず、企業文化というのは良くも悪くもなかなか変わらないものだ。

 たとえば日本航空。同社はかつて私が在籍していた会社だ。10年に経営破綻したとき、辞めてから15年近くもたつ当時の私が真っ先に思ったことは、「会社というのはこうも変わらないものなのか」ということだ。経営破綻によって明るみに出された数々の問題点は私の在職中にすべて存在し、大半の従業員が認識していた問題だったからだ。その後、稲盛和夫氏が日本航空の会長として乗り込み、再建を果たした。

 日産も倒産の淵まで行った会社だ。資金ショートが迫るなか、ギリギリのところで仏ルノーが出資してくれたことによって、倒産から免れたのである。そして、そのとき日産にやってきたのがカルロス・ゴーン氏である。日産V字回復の立役者と持ち上げられることの多いゴーン氏本人は、「再建の答えはすべて社内にあった」と言っている。これもまた、何が問題かはみんなわかっていたということだ。

 このような事例を見るにつけ思うことは、企業文化は行くところまで行かないと変わらないということだ。特に日本企業は能力やスキルではなく人柄に重きを置いた採用をする傾向があるので、人の考え方が同質化しやすい。さらに、いまだに強く残る年功序列のために、下の者が上の者に意見し、正すことも難しい。

 かくして、企業文化はどんどん強固に塗り固められ、自らは変えられないものになってしまう。「バカは死ななきゃ治らない」というが、企業文化も破綻のようなかたちで一度死ななきゃ変わらないほど根深いものなのだ。

 三菱自は、ダイムラー・クライスラーに救済された時点で一度死んでいる。それでも変わらなかったことを考えると、「企業文化は死んでも変わらない」というべきかもしれない。その三菱自を、ゴーン氏率いる日産が実質的に傘下に収めるという。ゴーン氏にしてみれば、三菱自が持つアジア市場での地盤などが魅力的なようだ。

 ゴーン氏には、ぜひとも三菱自の企業文化を根底から変えることを期待したい。日本航空や日産がそうであったように、企業文化を変えられるのはしがらみのない第三者、しかも強力な第三者だけだからだ。ダイムラー・クライスラーからCEOが来ても変わらなかった三菱自は、これがラストチャンスだろう。

 これで変わらなければ、三菱自の存在意義は本当になくなる。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)

金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

1965年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修士課程卒業。卒業後、日本航空(株)において情報システムの企画・開発に従事。在職中の1996年に公認会計士第2次試験合格。同年プライスウォーターハウスコンサルタント(株)入社。2000年公認会計士登録し、独立。2003税理士登録。2006年ブライトワイズコンサルティング合同会社(www.brightwise.jp)設立、代表社員就任(現任)。
ブライトワイズコンサルティング

Twitter:@TomKaneko

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