今年の猛暑、絶大な経済効果?家計消費が1兆円近く増も…なぜダンボール業界もプラス?
世界的に異常気象を招く恐れのあるラニーニャ現象が発生している。気象庁が6月24日に発表した7-9月の3カ月予報によると、ペルー沖の海面水温が低くなるラニーニャ現象の影響等で猛暑となる見込みとされており、内閣府が公表する景気ウォッチャー調査でも効果を期待するコメントが出ている。
ラニーニャ現象とは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で、海面水温が平年より1~5度低くなる状況が1年から1年半続く現象である。ラニーニャ現象が発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。
最近では2014年夏から冬にかけて発生し、スリランカで大雨となった。日本では西日本〜北日本の日本海側で10月を中心に暖秋となり、12月から翌年の2月上旬までを中心に寒波と長期的な降雪となった。
最も影響が拡大したのは1994年と10年の夏である。94年は日本で過去最高・観測史上1位の猛暑・暖秋となり、10年は21世紀日本で観測史上1位の猛暑となった。気象庁の過去の事例からの分析では、ラニーニャ現象の日本への影響として、梅雨入りと梅雨明けが早まることで夏の気温は平年並みから高めとなり、冬の気温は平年並みから低めとなる傾向がある、ということ等が指摘されている。
マイナスに作用する業界も
実際、10年のラニーニャ発生局面では記録的な猛暑に見舞われた。気象庁の発表によると、6~8月の全国の平均気温は平年より1.64度高くなり、1898年の統計開始以来最高の暑さとなった。この猛暑効果で7月のビール系飲料の課税数量は前年比2カ月連続プラスとなった。コンビニ売上高も麺類や飲料など夏の主力商品が好調に推移したことから、既存店前年比で7月以降2カ月連続プラスとなった。
また、小売業界全体をみても猛暑効果は明確に現れた。7月の小売業界の既存店売上高伸び率は猛暑の影響で季節商材の動きが活発化し、百貨店・スーパーとも盛夏商材が伸長したことで回復が進んだ。家電量販店の販売動向もエアコンが牽引し、全体として好調に推移した。
小売業界以外でも、猛暑の恩恵が及んだ。外食産業市場全店売上高は7月以降の前年比で2カ月連続のプラスとなり、飲料向けを中心にダンボールの販売数量も大幅に増加した。また、ドリンク剤やスキンケアの売上好調により製薬関連でも猛暑が追い風となった。
さらに、乳製品やアイスクリームが好調に推移した乳業関連も、円高進行による輸入原材料の調達コスト減も相まって好調に推移した。化粧品関連でも、ボディペーパーなど好調な季節商材が目立った。一方、ガス関連は猛暑で需要が減り、医療用医薬品はお年寄りの通院が遠のいたこと等により、猛暑がマイナスに作用したようだ。
事実、過去の経験によれば、猛暑で業績が左右される代表的な業界としてはエアコン関連や飲料関連がある。また、目薬や日焼け止め関連のほか、旅行や水不足関連も過去の猛暑では業績が大きく左右された。そのほか、冷菓関連や日傘・虫除け関連といった業界も猛暑の年には業績が好調になりがちとなる。
さらに、飲料の販売比率の高いコンビニや猛暑による消費拡大効果で広告代理店の受注も増加しやすい。缶・ペットボトルやそれらに貼るラベルを製造するメーカーや原材料となるアルミニウム圧延メーカー、それを包装するダンボールメーカーなどへの影響も目立つ。
このほかには、ファミレスなどの外食、消費拡大効果で荷動きが活発になる運輸、猛暑で外出しにくくなることにより販売が増える宅配関連なども、猛暑で業績が上がったことがある。一方、食料品関連やガス関連、テーマパーク関連、衣類関連などの業績には、過去に猛暑がマイナスに作用した経験が観測される。
GDPを押し上げ
そこで、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見るべく、国民経済計算のデータを用いて気象要因も含んだ7-9月期の家計消費関数を推計すると、7-9月期の気温や日照時間が同時期の実質家計消費に統計的に有意な影響を及ぼす関係が認められる。
そして、過去の関係からすれば、7-9月期の日照時間が10%増加すると、同時期の家計消費支出が0.45%程度押し上げられることになる。これを気温に換算すれば、7-9月期の平均気温が1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約5,100億円(0.8%)押し上げることになる。
従って、この関係を用いて今年7-9月期の日照時間が94年および10年と同程度となった場合の影響を試算すれば、日照時間が前年比でそれぞれ33.5%、25.0%増加することにより、今年7-9月期の家計消費はそれぞれ前年に比べて9,400億円(1.5%)、7,000億円(1.1%)程度押し上げられることになる。
ただし、家計消費が増加すれば、同時に輸入の増加等ももたらす。このため、こうした影響も考慮し、最終的に猛暑が実質GDPに及ぼす影響を試算すれば、94年並みとなった場合は7,200億円(0.6%)、10年並みとなった場合は5,300億円(0.4%)ほど実質GDPを押し上げることになる。このように、猛暑の影響は経済全体で見ても無視できないものといえる。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)