石油業界では大型再編が進行中だ。出光興産と昭和シェル石油、JXホールディングスと東燃ゼネラル石油の2陣営だ。いずれも2017年4月に経営統合することになっている。
歴史的な再編劇を背後で主導したのは経済産業省である。しかし、ここにきて官主導の業界再編に暗雲が立ち込めている。出光の創業家が“官制再編”に強く異を唱えているからだ。
出光の月岡隆社長と、創業者・出光佐三氏の長男である出光昭介名誉会長が7月11日、出光美術館の館長室で会談した。創業家が6月28日の定時株主総会で昭和シェルとの合併反対を表明したことを受け、月岡氏はあらためて合併の必要性を説明し説得を試みた。昭介氏はこれを受け入れず、議論は平行線を辿った。
皇居を眼前に望む帝劇ビル9階に出光美術館があり、国宝級のコレクションが並ぶフロアの一角に館長室がある。館長室は9階で、出光社長室は同じビルの8階だ。30秒とかからない距離にいるにもかかわらず、2人の心の溝は深く、そして暗い。
創業家vs.経営陣という対立の構図ばかり語られているが、創業家が反対するポイントは2つに絞られる。
ひとつは官主導の再編に異議を申し立てたということ。創業家の代理人を務める浜田卓二郎弁護士は外国通信社とのインタビューで、出光と昭和シェルの合併反対にとどまらず、9月に取得することが決まっている昭和シェル株式についても、「できれば手放してほしい」と踏み込んだ発言をしている。
出光は9月に33.3%の昭和シェル株を英・オランダ系ロイヤル・ダッチ・シェルから1691億円で取得することで合意している。これが実現した段階で昭和シェルは出光の関連会社になるが、取得した昭和シェル株を売却して関連会社から切り離せという主張だ。
昭和シェルだけではない。出光がほかの石油元売りと合併するシナリオについても「考えていない」とし、あくまで自主独立の路線を貫くべきだとの考えを示した。確かに、創業以来、出光は石油元売りの再編に距離を置き、民族系として自主独立の経営を続けてきた。
創業家の主張に矛盾点
合併に反対する理由として創業家が挙げるのは、中東情勢だ。中東でサウジアラビアとイランの対立が激化し、国交断絶にまで発展した。昭和シェル第2位の株主は、世界最大の石油輸出国サウジアラビアの国営企業、サウジアラムコで14.96%を保有する。