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筈井利人「一刀両断エコノミクス」

高まる現金廃止論は危険思想!国民の財産毀損やプライバシー侵害横行のおそれ

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「Thinkstock」より

 2月20日付本連載記事で、世界的な金融緩和策の「次の一手」として、現金が廃止されるおそれがあると述べた。その心配は的外れではなかったようだ。政治にも影響力のあるエリート経済学者が近著で、現金をなくせば税逃れや犯罪の防止、マイナス金利政策の効果強化などに役立つと主張し、現金廃止に向けた世論の喚起に動いた。

 その経済学者は、同記事でも触れたケネス・ロゴフ氏。米ハーバード大学教授で、国際通貨基金(IMF)エコノミストを務めた経験もある。8月に上梓した著書の題名はずばり、『現金の呪い(The Curse of Cash)』という。ロゴフ教授は同書で、硬貨や小額紙幣を除く現金の廃止を提言する。理由は大きく2つある。

 1番目は犯罪防止である。同教授によれば、世界に出回る現金の80~90%を占めるのは高額紙幣で、おもに地下経済で流通し、租税回避、犯罪、汚職に利用される。現金の使用を制限すれば、犯罪やテロをなくすことはできなくても、大きな一撃を与えることができるという。

 2番目は、中央銀行によるマイナス金利政策の効果を高めることである。ロゴフ教授は、マイナス金利は総需要を一時的に高め、銀行が融資を増やすきっかけになると評価する。そのうえで、マイナス金利が十分に効果を発揮するには、現金をため込ませないようにしなければならないと主張する。

 米ブルームバーグの報道によると、同教授は出版記念の会見で、自分の意見には政府関係者も賛同していると述べた。中央銀行関係者にも関心を示す人々がいる。同書のカバーにはバーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長が推薦文を寄せ、「非常に興味深い、重要な書籍」と称える。

増えるタンス預金


 政府や中央銀行関係者が現金廃止論を歓迎する背景には、ロゴフ教授が指摘するように、マイナス金利や超低金利政策がきっかけとなり、国民の間にタンス預金などのかたちで現金をため込む動きが広がっていることへの焦りがある。

 日本では今年1月、日銀がマイナス金利の導入に踏み切って以来、自宅で現金を保管する人が増えたのを背景に、金庫の販売が急増している。同じくタンス預金の増加などを受け、2016年度に印刷される1万円札の枚数は前年度の1.17倍の12億3000万枚になる。
 
 欧州でもマイナス金利を背景に金庫がブームになっている。米ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、ドイツ最大の金庫メーカー、バーグベヒターは今年上半期の家庭用金庫の売り上げが前年同期比25%増と急増した。ドイツ国内を中心に個人の需要が大きく伸びたという。競合他社も国内での売上高が2ケタの伸びを記録した。