地図情報で、日本国内断然トップのゼンリンは9月、車載ソフトウェア開発・販売の米アバルタ・テクノロジーズの発行済み株式の75%を10億円で取得し子会社にした。
アバルタは2003年設立で従業員は50人。スマートフォン(スマホ)のアプリ画面を車載機器に表示したり、車載機器からスマホアプリの操作を可能にしたりする「ウェブリンク」と呼ぶ技術に強みがある。買収により、ゼンリンはスマホと連携したさまざまなサービスを国内外のカーナビメーカーに提供する計画だ。
ゼンリンは「自動運転銘柄」として株式市場で注目を集めている。株価は11年11月25日の安値651円から16年5月11日の高値2816円まで4.3倍に上昇した。自動運転時代の有力のプレーヤーになると期待されている。
住宅地図からカーナビ用地図、自動運転用地図へ
ゼンリンの創業は1948年で、大分県の別府温泉で観光客用の温泉マップを手掛けたのが始まり。温泉宿の名前まで細かく掲載した地図が大ヒットし、創業者の大迫正冨氏は「一軒一軒の情報を掲載した地図」の製作を思いついた。それが現在、ゼンリンが圧倒的なシェアを誇る住宅地図につながっていく。本社を小倉市(現北九州市小倉北区)に移転、61年に有限会社西日本写真業版(現ゼンリン)を設立した。現在の本社は北九州市戸畑区だ。
80年、正冨氏が急逝し、息子の大迫忍氏が社長を継いだ。82年、他社に先駆けてデジタル地図の作製に着手。90年に世界初のカーナビゲーション用地図を発売し、国内でトップシェアを勝ち取った。これが評価され、94年福岡証券取引所、96年東京証券取引所・大阪証券取引所の各2部に上場。06年東証1部に指定替えとなった。
NHKの人気番組『プロジェクトX 挑戦者たち』で、ゼンリンが「列島踏破30万人 執念の住宅地図」(04年10月12日放送)として取り上げられ、知名度は全国区になった。
忍氏は「年を取ると老害になる。55歳で引退する」と宣言、2001年社長を退任。59歳の若さで亡くなった。「同族経営は弊害を生む」として、遺言により息子たちには継がせず、社員の中から社長を選ぶようにした。01年、銀行出身の原田康氏、08年に生え抜きの高山善司氏が社長の椅子に座った。
ゼンリンは米グーグルや米マイクロソフトなどにもデジタル地図を提供。スマホやパソコンで見られる日本地図の多くがゼンリン製だ。