やはり、老人福祉・介護事業者の苦境は続いていた。大手調査会社の東京商工リサーチが発表した2016年1-9月の倒産状況では、老人福祉・介護事業者の倒産が77件。前年同期の57件から35.0%増となり、2000年に介護保険法が施行されて以降、もっとも早いペースで倒産が増加していることが明らかになった。
負債総額は82億9600万円(同62.7%増)で、負債5000万円未満が53件(同39.4%増)と全体の68.8%を占め、設立5年以内の新規事業者が46.7%と約半数に上るなど、引き続き新規・小規模事業者の厳しい経営状態が浮き彫りになっているが、一方で負債10億円以上が2件発生しており、大手にも及んできていることがわかる。
事業形態の内訳では、デイサービスセンターなどの「通所・短期入所介護事業」が32件(同39.1%増)と「訪問介護事業」の25件(同39.1%増)となり、さらに有料老人ホームも7件(前年同期は2件)発生している。しかも、77件の倒産のうち75件(同33.9%増)の事業は消滅しており、民事再生など再建型倒産はゼロとなっており、老人福祉・介護事業の再建の難しさを物語っている。
15年4月に介護報酬の改定が行われた時に、多くの問題点が指摘された。なかでも、基本報酬を引き下げる半面、充実したサービスを行う施設へは報酬が加算される制度が導入されたが、これは事業者の経営を圧迫することになるとの批判が集まった。
そうした懸念どおり、経営状態が厳しくなる事業者が続出し、倒産は過去最多のハイペースで増加している。
慢性的な人手不足
もちろん、事業者側にも原因はある。倒産している事業者の多くが新規参入組であり、小規模の新規参入組に十分なノウハウがなく、引き下げられた厳しい条件の介護報酬しか得られないため、多くの倒産が生まれているのも事実だ。
しかし、そもそも老人福祉・介護事業者は需要不足であり、本来なら新規事業者は歓迎されるべきところ。必要な需要を満たす意図が政府にあるのなら、新規参入組が安定した経営ができる環境を整えるべきだ。
その上、老人福祉・介護事業では利用者の需要に比べて、事業者が慢性的な人手不足に陥っている状況に改善の兆しはなく、これも経営の安定を欠く原因となっている。