農業戸籍(農村戸籍)と非農業戸籍(都市戸籍)に国民を区分し二元社会構造を形成していた中国が、いよいよ統一戸籍へと戸籍改革に取り組むのではないか、という期待が盛り上がっている。9月19日に北京市が「戸籍制度改革をさらに一歩進める実施意見」を正式に発表し、首都自らが農村戸籍と都市戸籍の区分を廃止して統一戸籍に転換する姿勢をみせたからだ。
2014年に国務院が戸籍改革への方針を打ち出してから、チベット自治区を除く30省・市・自治区が戸籍改革方案を示したことになるが、首都が積極的に統一戸籍への転換を打ち出した意義は大きい。だが、改革開放以降、何度も掛け声がかけられながら進まなかった戸籍改革が本当に、今になって実現するのだろうか。
戸籍制度改革の背景
まず、なぜ今になって半世紀続いてきた戸籍制度の改革が急に動きだしたか、その背景について考えてみよう。
一般的に、経済が市場化すれば、人的資源の配置に変化が起きるのは当然であり、従来の農地に人を縛り付けておく戸籍制度では限界にぶつかる。だが、最高指導者だったトウ小平は1970年代後半以降に改革開放という経済の市場化をスタートとさせたとき、あえて戸籍制度は変えなかった。
その目的は、農村経済水準を都市経済水準よりも下におくことで、農民を安価な労働力として利用して、外資を呼び込んで都市経済を発展させようと考えたからだ。戸籍制度をそのままにして二元社会構造を維持すれば、実質的に国内に植民地を持っているようなもので、豊かな都市が農村の労働力を搾取できる。
かくして、農民は「出稼ぎ者」として都市への移動は認められたが、それは社会保障を伴わない限定的な移動であり、都市に定住しても低層で低賃金の二等市民の存在に落とし込められた。それから30年あまりの月日が流れ、中国の経済・社会状況がかなり変わってきた。
深刻な都市の労働力不足
まず、高齢社会化によって労働力不足が問題になってきた。農村の余剰労働力を安価で使い捨てにすることができなくなってきた。一方で、格差の大きさが社会の不安定化につながるという懸念から、農村の生活も急速に改善されるようになってきて、農民に都市への出稼ぎ願望が以前ほど強くなくなってきた。つまり、農民の出稼ぎ者にも都市における社会保障を与えなくては、都市の労働力を確保できなくなってきた。