さらに、農地が再開発によって不動産としての価値を持つようになってきた。農民が農地(使用権)を強制収用されたり、多額の補償金と引き換えに農地を手放したりして、農地を持たない失地農民が増えてきた。
また都市に出稼ぎに行ったまま定着し、農地を放置する農民も増え、農地が荒れる現象も起きている。農村が再開発され事実上都市化し、農村戸籍でありながら都市生活者に変わる人も増えた。
これまで戸籍改革にとって最大の障害は、農民の移動の自由を認めると、大都市の人口が爆発し、大都市の都市資源(水や電気、インフラ)が枯渇するという都市民の恐れだった。だが、いまやその懸念以上に、都市機能や都市の産業を支える労働力不足のほうが心配されるようになってきたのだ。
二元戸籍制度の限界
中国の戸籍問題の現状について、北京理工大学人文社会学の胡星斗教授は、中国の有力週刊誌『三聯生活周刊』でこう指摘をしている。
「農村・都市の二元戸籍制度は、計画経済とコントロール型社会の産物だ。市場経済が発展すれば、市場の要求に従ってマンパワー資源の再配置を行う必要があり、自由な移動が必要となる。(略)だが真の移動の自由は社会保障を伴わねばならない。今の中国では、出稼ぎ者に都市民としての何の保障もない、という点で、移動の自由は存在していない。(略)一方、2億人以上いるといわれる出稼ぎ農民は、実際は少しずつ減少している。余剰労働力が枯渇し始めている。現行の二元戸籍制度では、出稼ぎ農民の子供は、義務教育を受けることにも困難があり、さらに大学進学となるといわずもがなだ。この結果、農村の留守児童問題(両親が出稼ぎに出て、学校に行くために子供だけ農村に残される)が起きている。だから、農村の生活が多少改善されると、彼らはあえて出稼ぎに行こうとは思わない。このため今後数年から十年の間に、余剰労働力が完全になくなるとみられている。戸籍改革をして出稼ぎ者に都市民との同等の権利を与え、農民を余剰労働力ではなく都市の労働人口にせねば、中国の都市産業が維持できなくなる」
ただ戸籍改革に困難が伴うことは疑いがない。胡教授はこうも言う。
「各地方の指導者は戸籍改革に対しては熱心ではない。かつてのある調査によれば、市・県級の指導者の7割が戸籍改革に反対している。理由は、戸籍改革が彼らの利権を損ねるからだ。また教育、医療、養老の負担が大きくなる。過去に鄭州や石家荘、寧波で戸籍改革に取り組まれたことがあるが、すべて財政圧力と既得権益層の妨害により挫折している」