サウジアラビアの若き実力者、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子が、9月に日本を訪れた。父であるサルマン国王の下で、外交・安全保障から経済、石油に至るまで広範な権限を一手に握る。ほとんどの経済閣僚を引き連れ、総勢500人が航空機13機でやってきた。
副皇太子が4月に発表した経済改革構想「ビジョン2030」は、石油への依存からの転換を掲げる。国営石油会社サウジ・アラムコの株式を上場し、得た資金を産業の育成や雇用の創出に振り向ける。
副皇太子は9月3日までの滞在中、安倍晋三首相や経済人と会った。「意外な人物が副皇太子に会っている」と9月19日付日本経済新聞が報じた。
「ソフトバンクグループの孫正義社長だ。サウジ国営通信は、ラフなジャケット姿の孫正義社長が9月3日に、滞在先となった迎賓館で副皇太子と談笑する写真を配信した。同通信は『ビジョン2030への協力とサウジへの投資を話し合った』と伝える」
さまざまな憶測が飛び交ったが、やがて、その全容が明らかになった。
サウジ副皇太子との会談でファンド創設を提案
ソフトバンクグループは10月14日、サウジアラビアの政府系ファンドと組み、最大で1000億ドル(約10兆円)規模となる可能性のある投資ファンド、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を立ち上げると発表した。サウジの脱原油政策を推進する巨大ファンドだ。
SVFにソフトバンクは今後5年間で少なくとも250億ドル(約2.6兆円)を注ぎ込む。一方、サウジの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)は5年間で450億ドル(約4.6兆円)を出資する予定。残る300億ドルについてアラブ首長国連邦(UAE)の構成首長国のひとつであるアブダビの政府系ファンド、アブダビ投資庁が出資の意向だという。
このほか、シンガポールの政府投資公社(GIC)とカタール投資庁が出資を検討しているという。
中東諸国は、原油価格の下落で財政が悪化している。原油収入に代わる有望な投資先を探しているという事情がある。さらに複数の中東の政府系ファンドもSVFへの出資に関心を寄せているようだ。
孫氏は「ソフトバンクがさらに大きく事業を展開していくうえで、自社資金だけだと規模がどうしても小さくなる。半年ほど前からファンド創設を構想した。9月に来日したサウジのムハンマド副皇太子に、自ら提案した」と語っている。