まさかの大どんでん返しに終わった米国大統領選。開票当日の11月9日(日本時間)、日経平均終値は1万6251円54銭。前日の終値から919円84銭の下落だった。この日、国内証券市場に上場している約3600社のうち、前日比で終値が上昇した会社はわずか145社。このうち5%以上の上昇となったのは25社だった(表参照)。
顕著な傾向は、防衛産業関連の銘柄が上位にきていることだ。上昇率トップは前日から23.7%の上昇となった細谷火工。創業は1906年と100年以上の歴史を有し、自衛隊向けの照明弾や発煙筒が主力。都内で唯一の火薬類の廃棄処理場を持ち、有効期限切れの火薬の廃棄処分も請け負っている。
4位の東京計器は17.6%の上昇。この会社も歴史は長く、1896年創業なので今年は創業120周年。主に利益を稼いでいるのは船舶用のコンパスやレーダーなどの船舶港湾機器事業だが、売上高では防衛・通信機器事業が全体の3分の1を占める。
「無数のマイクロ波スクランブルの中から危険な周波数のみを瞬時に捉え、パイロットに警報を与える『レーダ警戒装置』、標なき海中を航行する潜水艦を安全・確実に導く『慣性航法装置』など、ここには最先端の技術のみが成し得る世界があります」(同社HPより)
9位の石川製作所は段ボールの製函印刷機のメーカーで、1921年創業。段ボール首位のレンゴーが発行済み株式総数の2割を保有する筆頭株主。同社HP上では、製函印刷機、医療機器や繊維機械などしか紹介されていないが、主力は機雷などの防衛機器。売上高、営業利益ともに、概ね半分を防衛機器部門が稼いでいる。
10位の豊和工業も歴史は古い。トヨタグループの創始者、豊田佐吉が発明した動力織機を製造するために、1907年に誕生した会社だが、トヨタ自動車との資本関係はない。自動車業界向けの工作機械が主力だが、国内唯一の小銃メーカーという顔も持つ。防衛省向けには小銃や迫撃砲、手榴弾、防音サッシを納入しており、小銃技術を生かすかたちで海外向けに猟銃も製造している。
銃弾メーカーの名前も
11位の日本アビオニクスはNECの子会社。防衛省向けの情報システム部門が売上高全体の6割を占める。
「防衛庁(現防衛省)から主契約会社として受注した第一次バッジシステム(自動警戒管制組織)で、日本初の大規模オンライン・リアルタイム・全国ネットワークシステムを実現しました。さらに新バッジシステムの開発に参画し完成に導いています。その他、陸・海・空の安全を守る多くの指揮・統制システム、表示・音響システムなどに、最先端の技術を駆使した機器・装置を提供し続けています」(同社HPより)
15位の重松製作所は産業用の防毒マスクや保護メガネの大手企業。来年創立100周年を迎える。防衛省向けには同業の興研のほうが強いようだが、重松製作所は米3M社に防毒マスクをOEM(相手先ブランド生産)供給している。
16位の旭精機工業は小口径の銃弾メーカー。筆頭株主は発行済みの17.8%を保有する、工作機械大手のオークマ。第2位株主は16%を保有する古河電気工業。売上高全体の3分の1が、小口径銃弾。売上高の3割を防衛省に依存する、防衛省依存度の高い会社だ。
「トランプ」というリスクファクター
今は3月決算企業の第2四半期の実績開示シーズンに当たっており、防衛関連ではなく株価が上昇した銘柄のなかには、第2四半期の業績や通期業績修正予想を好感したものもある。
一方、防衛産業といえば多くの人が真っ先に連想するはずの三菱重工業や川崎重工業、三井造船はどうだったのか。3社とも値上がりではなく値下がり組で、三菱重工は3.5%、川崎重工は4.7%、三井造船は4.1%の下落だった。
翌11月10日の日経平均は、前日比1092円88銭高の1万7344円42銭。前日の下落分を取り返してなおおつりが来た。値上がり率上位銘柄の顔触れもがらりと入れ替わった。
米国内ではさっそく反トランプの大規模なデモが多数発生しているという。依然として「トランプ」は株式市場にとってリスクファクターである。トランプ大統領誕生=戦争勃発というのは飛躍にすぎるとしても、はからずも多くの市場参加者が、脊髄反射的に防衛予算枠拡大を連想したことの証しであることは間違いないだろう。
(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)