訪日外国人観光客が増加の一途を続けるなか、政府は観光立国を目指して邁進している。その目玉ともいわれるのが、日本国内でカジノの開設を可能にするIR(統合型リゾート)推進法案だ。
IR法案はこれまでにも何度も国会に提出されてきた。成立確実といわれながら安全保障法案などを優先したために、成立は見送られてきた。今国会でもIR法案は提出され、今度こそ成立するとも囁かれている。IR法案が見送られてきた背景には、国民の間には「カジノ=賭場」のイメージが強くあり、それを国会議員たちも警戒しているからだ。
カジノを大阪に誘致しようと躍起になっていた橋下徹市長(当時)は、「カジノはギャンブル場ではなく、富裕層の社交場」と繰り返し訴えてきた。富裕層の社交場と形容すればギャンブル色は薄まり、支持を得られるという認識があったのだろう。
橋下氏がカジノを推進する理由は、大阪の経済が停滞するなかでカジノを大阪再生の切り札にしようと考えていたからだ。橋下氏は表面上、市長退任後に政界から引退としている。しかし、同志・松井一郎大阪府知事をはじめとする「大阪維新の会」の面々や後継の吉村洋文市長などは、現在でもカジノを積極的に誘致しようとしている。
IR法案が成立すれば、早急にカジノをどこに開設するのかを選定する作業が始まるだろう。いや、すでに水面下では各都市間でカジノ誘致をめぐる綱引きは始まっている。
熱が冷める東京
IR法案が議論される以前、最有力候補地といわれていたのは東京と沖縄だった。もともと、東京都はカジノに積極的で、石原慎太郎都知事(当時)は都庁内に模擬カジノをつくり、プレイベントを開催するほど熱を入れていた。
2014年に舛添要一都知事が誕生すると、東京都はカジノに対して消極的な姿勢に転じた。そうした東京都の豹変について、都庁職員はこう話す。
「石原都政下で盛り上がったカジノ構想は、お台場に用地も確保されていますが、舛添都政ではギャンブル依存症や犯罪の温床になる危険性といった負の部分をきちんと検証することになりました。東京都は積極的にカジノを推進している立場のように思われていましたが、現在は慎重な立場になっています」
カジノに懐疑的だった舛添氏の影響もあって東京はカジノレースから後退。舛添氏が辞任し、今年から新たに就任した小池百合子都知事は築地市場の豊洲移転や東京五輪の問題に忙殺されているので、とてもカジノまで手は回らない。そのため、小池都政下における東京都のカジノへのスタンスは現在のところ不明だ。