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カイロプラクティック、死亡事故や脊髄損傷で障害残る例も…素人同然の施術者多く、見極め困難

文=喜屋武良子/清談社
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カイロプラクティック、死亡事故や脊髄損傷で障害残る例も…素人同然の施術者多く、見極め困難の画像1「Thinkstock」より

 肩こりや腰痛など体の痛みを感じたとき、指圧、マッサージ、整体などで施術を受けたことのある人も多いだろう。なかでも、アメリカで生まれた治療法で日本でも人気が高いのが「カイロプラクティック」だ。

 厚生労働省の『「統合医療」情報発信サイト』は、カイロプラクティックを「主に脊椎やその他の身体部位を調整(矯正)することにより、ゆがみの矯正、痛みの軽減、機能改善、身体の自然治癒力を高めることを目的」とするものと定義している。要は、背骨のゆがみなどを手技(しゅぎ)で矯正することで、痛みを軽くしたり体の状態を良くしたりするわけだ。

 しかし、近年、このカイロプラクティックでけがをしたり、ひどい場合は死亡したりする事例が相次いでいるという。実際、アメリカでは、昨年10月に成人向け娯楽雑誌「PLAYBOY」の専属モデルだったケイティ・メイがカイロプラクティックで受けた首の治療が原因で脳卒中により死亡したと報じられ、日本でも注目を集めた。

 なぜ、カイロプラクティックで事故が起きるのか。いったい、カイロプラクティックの何が「危険」なのだろうか。

首の施術は椎骨動脈を傷つけ、死に至る可能性も

「カイロプラクティックは、体の部位のなかでも、特に背骨のゆがみを矯正する施術を重視します。しかし、背骨というのはデリケートで慎重に扱われるべき部位。それにもかかわらず、カイロプラクティックには安易に施術を行う『自称カイロプラクター』が非常に多いのです」

 そう話すのは、現役の鍼灸師のA氏だ。人体の専門家として、A氏は以前からカイロプラクティックの施術内容に疑問を抱いていたという。

「背骨は、体を支えるだけでなく脳から直接伸びる太い神経(脊髄)を保護する役割があります。脊髄からは末梢神経が枝分かれし、全身に張りめぐらされているため、脊髄を損傷すると、その下の末梢神経につながる部位まで障害が残る可能性があります」(A氏)

 また、カイロプラクティックでは、背骨のゆがみ矯正の延長で首に手技療法を施すことがあるが、これもかなり危険度の高い施術だという。

「『首に刺激を与えることで首の骨(頸椎)の間に詰まった神経がとれ、首の痛みやコリが解消される』と、説明するカイロプラクターもいるのですが、首への施術は、やり方を誤ると椎骨動脈を傷つける恐れがあります。最悪の場合、死に至る可能性も否定できません」(同)

 実際、ケイティが死亡したのも、カイロプラクティックで首を曲げられたときに椎骨動脈が裂け、脳卒中を引き起こしたことが原因と報道されている。国民生活センターのホームページには、「手技による医業類似行為の危害」の主な事例として、接骨院でカイロプラクティックを受けた「東京都・30代・女性」が肋軟骨を負傷、その後めまいが出て、整形外科医に頸椎捻挫と診断されたケースなどが紹介されている。

 さらに恐ろしいのは、仮にカイロプラクティックを受けてケガや障害が生じても、「その原因がカイロプラクティックの施術」と証明することが困難なことだ。国民生活センターに相談を寄せた、前述の「東京都・30代・女性」も、弁護士や自治体の法律相談、警察、保健所などに相談したが、「因果関係がはっきりしない」と対応してもらえなかったという。

「鍼灸師や整体師など業界関係者の間では、カイロプラクティックで起きた重傷事故の事例をよく耳にします。表に出ていない例も含めると、実際の施術事故は、かなりの数に上るかもしれません」(同)

素人同然の「自称カイロプラクター」も多い現実

 とはいえ、すべてのカイロプラクティックに問題があるわけではない。欧米やオーストラリアなど、カイロプラクティックは多くの国で行われているメジャーな手技療法で、A氏も部分的にはその効果を認めているという。

「『背骨のゆがみを治して患部の痛みを取り除く』という理屈は、間違いとは言い切れません。確かに、背骨のゆがみを知らせるために体が痛みを発しているケースもあるので、原因であるゆがみを矯正すれば痛みが引くのもわかります。症状によっては、カイロプラクティックでも効果は得られるでしょう」(同)

 しかし、それはあくまでも十分な知識と経験を持つ施術者が治療することが前提だ。鍼灸師や柔道整復師などの場合、専門の教育機関でカリキュラムを受けた上で国家試験に合格しないと免許を得ることはできない。ところが、日本ではカイロプラクティックは民間療法に位置づけられており、誰でも簡単に「カイロプラクター」を名乗ることができるという。

「日本にもカイロプラクターを養成する専門学校があるにはありますが、半日のセミナーを受けて翌日から開業することもできるのが実態。リスクを伴う施術なのに、にわか仕込みの素人が専門家のふりをして治療を行っている場合が非常に多いのです」(同)

 こうした施術者のレベルの低さ、“自称カイロプラクター”がのさばる現状こそが、カイロプラクティックの一番の問題なのだという。

「そもそも、カイロプラクティックは、患者が10人いたとして、その10人すべてに有効とは限らない手技療法です。それにもかかわらず、あたかもカイロプラクティックを受ければ誰でも体が良くなるかのようにうたっている広告も多い。あれでは、患者を実験台にしているようなものですよ」(同)

施術者のレベルや危険度を見極めるのは難しい

 その一方、カイロプラクティックを受ける患者が、知識と経験のある施術者と自称カイロプラクターを見分けるのは至難の業だ。「本当にいい施術は、痛みを伴わない」という俗説もあるが、A氏によれば「施術者の良し悪しにかかわらず、症状によっては痛みを伴う治療でないと効果が得られない場合もある」という。しかし、患者にすれば、それが治療の効果を得るための痛みなのか、本当に体が傷んでいるための痛みなのか、判断することは難しい。

「まれに、手技だけで患者の内臓の不調までわかる施術者もいますが、これも知識と経験に基づいた判断なのか、パフォーマンスなのか、患者には区別がつきません。正直言って、そのカイロプラクティックが安全かどうかを一般の人が見分けるのは難しいと思います」(同)

 自称カイロプラクターがのさばっている上、質の高い施術を行うカイロプラクティックかどうかを事前に判断することも難しい。リスクを避けるためにも、宣伝文句を真に受けたり施術者の言うことを鵜呑みにしたりしないように注意したほうがいいだろう。
(文=喜屋武良子/清談社)

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清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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