パチンコ依存症の客に3万円を渡し、受け取る領収書の額面は金利1万5000円と手数料5000円を上乗せした5万円。客に課せられる金利は1日3割の“ヒサン”……。これは漫画『闇金ウシジマくん』(小学館/真鍋昌平)に登場するヤミ金業者の手口の一例だ。
しかし、かつては違法な金利、嫌がらせ・脅迫・住居侵入・監禁など、暴力団まがいの悪質な取り立てが社会問題にまで発展したヤミ金も、最近は新聞の社会面を賑わすこともなく、一目でヤミ金とわかるあやしげな広告も見かけなくなった。
「『闇金ウシジマくん』のように、事務所を開いてヤミ金一本でやっているような業者は、もうほとんどいません。もはや、ヤミ金業界は衰退しつつあります」
そう語るのは、『闇金ウシジマくん』にも取材協力し、『ヤクザライフ』(双葉社)などの著書を持つ闇社会に詳しいジャーナリストの上野友行氏だ。
ヤミ金はなぜ衰退したのか、そして、どこに消えたのだろうか。
今や客よりヤミ金業者のほうが弱い立場に?
「固定電話を持たず、携帯電話のみで客に貸し付けを行う『090金融』の業者はまだ残っていますが、現在は警察の取り締まりも厳しくなり、ヤミ金はうまみの少ない商売になってしまっているのです」(上野氏)
上野氏によると、ヤミ金に対する取り締まりが強化されたのは2003年以降のことだという。きっかけとなったのは、年間1000億円を荒稼ぎするなど、ヤミ金の元締めだった指定暴力団山口組系二次団体・五菱会が摘発された「五菱会事件」だ。
また、同年には、ヤミ金業者による法外な金利と悪質な取り立てを苦に大阪府八尾市の一家3人が電車に投身自殺するという、ヤミ金犯罪史上最悪といわれる「八尾市ヤミ金心中事件」も起きている。
こうした事件により、それまで「民事不介入」などといって放置してきた警察も、ヤミ金の取り締まりに本腰を入れて取り組み始め、ヤミ金に対する法規制も整備されていく。つまり、この十数年間でヤミ金を取り巻く状況は大きく変化し、ヤミ金業者にとっては商売しづらい世の中になってしまったのだ。
しかも、以前は暴力を背景に客に恐れられてきたヤミ金だが、上野氏は「最近では立場が逆転し、客よりもヤミ金業者のほうが弱い立場に置かれている」と指摘する。
「一昔前は、『1件でも客に逃げられたら、なめられて食えなくなる』というのがヤミ金業界の常識でした。ところが、最近は返済しない客に嫌がらせをしただけで、すぐに弁護士や警察が出てくる。なかには、飛ぶ(逃げる)前提でヤミ金から金を借り、借りては逃げて……を繰り返す客もいます。ヤミ金の手口を熟知するなど客側が知恵をつけたので、昔のように嫌がらせしたり脅したりできなくなってしまったわけです」(同)