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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

【賃金、上昇しない公算強まる】直近の日本経済を左右する要因:トランプ米国と欧州混沌

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
【賃金、上昇しない公算強まる】直近の日本経済を左右する要因:トランプ米国と欧州混沌の画像1「Thinkstock」より

 2016年の日本経済は実質GDP成長率が4期連続でプラス成長になるなど、表面上持ち直しの動きを見せた。しかし、プラス成長の主因は輸入の減少や個人消費の底入れであり、一方で海外経済の減速や円高等に伴う設備投資の停滞が成長率の足を引っ張ったため、自律的な回復とはいえない。

 こうしたなか、16年秋以降になって、しばらく主要国の生産循環が上向き始めてきた。背景には政策効果等による中国経済の回復や原油価格の戻しがある。従って、世界的な生産循環の好転と期待インフレ率の上昇を加味すれば、17年の日本経済は16年よりやや好転することが見込まれる。

 そして17年の着目すべきイベントは、海外が中心となろう。

 最大の注目イベントは、米国新議会・新政権の誕生である。トランプ氏の経済政策は、大型減税やインフラ投資等をはじめ、大型の財政政策を計画している。このため、トランプ政権の大型財政政策の規模やメニュー等をめぐる議会との調整は注目だろう。

 一方でトランプ氏は、NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉やTPP(環太平洋経済連携協定)からの撤退等、貿易障壁の導入や厳格な移民政策も主張している。こうした保護主義的な傾向の強さ等は、共和党議会と距離がある。

 ただ、通商政策は大統領権限を発揮しやすい分野であり、議会の制御が効きにくいという意味では、保護主義化のリスクは小さくない。したがって、トランプ氏の過激な提案を議会がどこまで修正できるかも焦点となろう。

 日本経済への影響としては、大規模な財政支出の期待で円安株高が持続されれば、日本経済を押し上げる。一方で、NAFTA脱退や厳格な移民政策が実行されれば、世界貿易の下押しを通じて日本経済にも悪影響が波及する可能性もあるので注意が必要である。

欧州政治不安

 欧州でも、17年は議会選挙などの政治イベントが目白押しだ。いずれの国でもEUに懐疑的な政党の勢いが増しており、欧州政治不安への懸念が燻っている。

 3月には英国とEUの離脱協議開始やオランダの下院選挙があり、EU懐疑政党である自由党が第一党となる可能性がある。4~5月にかけてはフランスで大統領選挙があり、こちらもEU懐疑政党である国民戦線のルペン党首が決選投票に進む可能性が高い。

 8~10月にかけてはドイツ議会選挙があり、現与党が議席を減らす可能性が高い。さらに、16年12月4日の国民投票で憲法改正案が否決されたイタリアでも政局が流動化している。したがって、こうした米欧政治の不確実性の高まりが、賃上げ抑制や設備投資先送り等を通じて日本経済の下押し要因になり得ることが懸念される。また、今後のトランプ氏の言動や欧州政局次第では市場が大きく変動するリスクもあることには注意が必要だろう。

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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