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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

【賃金、上昇しない公算強まる】直近の日本経済を左右する要因:トランプ米国と欧州混沌

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

国内要因

 一方の国内では、来年の春闘がこのままだと結構厳しい可能性があるとの見方がある。春闘の賃上げ率は、(1)前年の企業業績、(2)人手不足感、(3)物価上昇率に影響を受ける。特に物価上昇率が、大きな決定要因になっており、物価が上がっていれば、それだけ従業員の生活水準を維持するために賃上げの要請がしやすい、ということになる。実際の物価はこれまでの円高の影響で今期のインフレ率や業績はそこまで期待できない。労働需給だけは、失業率が3%まで下がって逼迫しているが、再度為替レートが円高に転じてしまえば、来年の賃上げ率が下がる可能性もある。

 ただ、自動車やテレビの買い替えサイクルが到来しつつあることから、これまでのように消費が減り続けていくという局面は脱し始めている。従って、個人消費の耐久財買い替えサイクルが持続している間に、いかに企業マインドが戻ってくるかというところにかかっている状況だといえる。

 こうしたなか、日銀短観によると、特に製造業で業況が良いと答える企業の割合を見ると、大企業よりも中小企業のほうが多いことがわかる。これは、中小でも好業績を上げている企業が多いということを示している。

 中小企業庁によれば、こうした最近の中小企業成功のトレンドには大きく2つある。ひとつ目がITの導入である。大企業はIT導入済で改善の余地は少ないが、中小企業はクラウドサービスを導入して業務効率化することにより、収益拡大につなげる成功事例もある。

 2つ目が、特に中小企業であれば単独だとなかなか厳しいなかで、企業間ネットワークを形成して、成功をしているという最近のトレンドである。例えば、大阪のネジ卸の会社は、中小企業4社でネットワークを形成し、受注から出荷まで、部品の一貫生産を可能にし、完成部品を短納期で納品できる仕組みをつくって、事業化に成功している。

 また、イノベーションまでいかなくても、端的に販路開拓で成功しているケースも最近目立つ。ここには、(1)グローバル展開、(2)ITの有効活用、(3)デザイナーの有効活用、とポイントが3つある。

 大阪にある土鍋をつくっている会社では、デザイナーと連携した新しいデザインの商品を開発して、フランスの見本市に出展して評価され、それがネットで広がり、他の海外や国内でもネット通販で販路獲得に成功している。デザイナーがポイントになっている背景としては、日本特有の文化風潮もあり、デザイン性や芸術性など他には真似できないものがあるため、こうした部分をいかに有効活用できるかが勝負の分かれ目だと考えられる。

 最後に、日本でも地方に行けば行くほど、人材の不足や定着の問題があり、それに対する決定打はない。しかし、おもしろい取り組み事例もある。広島では、NPO法人や自治体や商工団体で組織し、中小企業間で人材のローテーションを行っている。人手の過不足を補完するだけではなく、さまざまな経験をさせて将来を担う人材を育成する取り組みであり、参考になるのではないだろうか。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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