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東芝、信じがたい素人経営…部門間の情報断絶、巨額買収会社の経営放置で巨額損失

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
東芝、信じがたい素人経営…部門間の情報断絶、巨額買収会社の経営放置で巨額損失の画像1記者会見で決算発表再延期を陳謝する東芝の綱川智社長(ロイター/アフロ)

 東芝は、いったいどこで何を間違えたのだろうか――。

 2月14日の記者会見の席上、綱川智社長は次のように答えた。

「ウエスチングハウスを買収したことと、いえなくもない」

 東芝が、米原子力メーカー・ウエスチングハウス(WH)のM&A(合併・買収)の失敗を、初めて公式に認めた瞬間である。

 では、なぜ東芝は失敗したのか。ひとつは、「高値づかみ」である。東芝は2006年、WHを6,600億円の巨費を投じて買収した。当時、WHの資産価値は2,000億から2,500億円といわれた。買収する際、3割程度のプレミアムを上乗せするのが一般的だが、東芝はそれどころではない巨費を投じたわけだ。

 なぜか。WHの買収をめぐっては、ライバル企業があったからだ。

 三菱重工業である。WHの原子炉はもともと加圧水型で、同型を手掛ける三菱重工が買収先として有力視された。そこに割って入ったのが、東芝である。東芝のそれは沸騰水型なので、当然不利だと思われた。ところが、東芝は土壇場で逆転に成功したのだ。

 決め手になったのが、当時社長の西田厚聰氏の決断だった。乾坤一擲、相場の3倍近い高値を提示し、一気にせり落としたのだ。ライバルだった三菱重工は、「そんなにおカネを出して、採算が取れるのだろうか」と訝しんだ。

 東芝社内にも、常識外の高値にWHの買収は吉と出るか凶と出るかバクチのようなものだと、疑問視する声があった。それほどの「高値づかみ」であった。

 ただ、これにより東芝が世界一の原発メーカーにのし上がったのは確かで、その頃の西田氏は得意満面だった。この決断が「東芝の悲劇」を招くことになるとは、当時、知る由もなかった。

 東芝は、「高値づかみ」という批判を吹き飛ばすかのように、原発事業に力を注いだ。米国や中国で10基を受注し、西田氏は次のようにぶち上げた。

「目標は15年までに原子炉33基の受注」

 ところが好事魔多し、11年の東京電力福島第一原発事故で、原子力事業をめぐる経営環境は劇変した。世界中で原発に対する逆風が吹き荒れ、新規計画の見直しや撤退が相次いだ。安全規則も強化された。しかし、東芝は、原子力事業に引き続き力を注いだ。

「買いっ放し」

 M&Aの失敗の第2の原因は、「買いっ放し」である。かつて、社長時代の西田氏にインタビューしたとき、「WHのマネジメントはうまくいっているんですか」と聞いたことがある。「むろん、うまくいっている。現地に日本人を派遣しているからね」と、自信満々の表情で答えた。

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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