しかし、経営改善やシナジー効果の創出など、目に見える成果は出てこなかった。原子力事業はトップのコントロール下にはなく、コーポレートガバナンスは機能していなかった。現地に「任せた」というよりは、「買いっ放し」だった。
特殊な事情もあった。というのは、原子力発電は高度かつ複雑なシステムで、部外者には理解しがたい側面がある。現に原子力分野は東電で“原子力村”と呼ばれていたことに象徴されるように、東芝社内においてもアンタッチャブル扱いされてきた。
今回の騒動で東芝会長を辞任した志賀重範氏は原子力の専門家で、買収後にWHの社長、会長を務めたが、東京本社とどこまで情報共有していたのか。“原子力村”の住人として内に閉じこもり、本社に的確な情報を上げていなかったと思われる。
それを象徴するシーンがあった。社長の綱川氏は、今回のWHの子会社の6000億円を超える巨額の損失を取締役会の席上、突然の志賀氏からの報告によって認識した。それは、昨年12月27日の記者発表のわずか数週間前だった。役員は、その報告に唖然としたという。つまり、不正会計問題発覚以降、経営刷新や社内の意識改革に取り組んできたにもかかわらず、依然として経営陣と原子力分野の間で“情報遮断”が続いていたことになる。結果的に「買いっ放し」状態が続いていたわけである。
O&Mの欠如
もう一点、指摘しなければならないのは、買収先のオペレーション(O)&マネジメント(M)の失敗である。欠如といったほうがいいだろう。
東芝は、原発に関する海外ビジネスの経験が乏しかった。ズサンな危機管理、脆弱なガバナンスなどは、海外でのマネジメント経験のなさが影響していた。いや、日本企業には根本的に海外でのO&Mのノウハウがない。
日本では阿吽の呼吸や“なあなあ主義”で仕事を進められるが、海外ではそうはいかない。ビジネスのやり方、仕事のやり方が違う。マネジメントのあり方も異なる。
たとえば、海外の企業では、雇用形態が多様だ。国籍、民族、宗教、文化などが違う。当然、意思疎通のズレや、誤解の発生は避けられない。情報共有も難しい。ましてや原発ビジネスでは、安全規制や契約、作業規準など、国によって違っており、オペレーションは容易ではない。日本の本社は簡単に口出しできないのが実情だ。現地の経営陣に任せるしかない。
その結果、買収先企業は聖域化する。現地の経営陣に丸投げの状況となり、リスクを把握することすら困難になる。その典型例が東芝だった。
財務省によると、大企業の15年度の内部留保(利益余剰金)は、前年度を13.5兆円上回る過去最大の313兆円にのぼった。日本企業の内部留保の多さについては、かねてから批判がある。
今後、内部留保の有効な使い道は海外M&Aである。そうである以上、M&Aを成功させるには東芝の失敗から学び、次の飛躍につなげていかなければいけない。
もっとも、東芝には過去を悔やみ反省している時間はない。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)