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江川紹子の「事件ウオッチ」第82回

大手メディアが伝えない画期的判決!金融庁課徴金命令で初の取消判決…国家が犯した「2つの犯罪」とは

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金融庁が入居する中央合同庁舎(「Wikipedia」より)

「象がアリを踏みつけるのはよくあることだが、今日はアリが象を倒した」

 これが、判決後の記者会見で、原告代理人を務める白井劍弁護士が発した第一声だった。「象」は金融庁、「アリ」は元金融コンサルタントの女性Hさんのことだ。この日の判決で、東京高等裁判所(阿部潤裁判長)は、Hさんの主張を全面的に認め、インサイダー取引などの不正に対する課徴金制度のあり方について、初めて司法として指針を示した。曖昧で一方的な事実認定による「冤罪」が生まれているとの指摘もある、この制度の運用について、司法がタガをはめる画期的な判決だった。

 ところが、この判決の意義を大手メディアは伝えず、判決そのものを無視したメディアもある。そこでここで要旨をお伝えすることにしたい。

 Hさんの身に事件が降りかかったのは、2012年4月24日朝。いきなり自宅に証券取引等監視委員会(SESC)の調査官らが5人ほどやってきた。Hさんは「弁護士を呼びたいので待ってほしい」と頼んだが、彼らは有無を言わさぬ調子で、「任意だから、弁護士を呼ぶ必要ありません」と言って、Hさんを霞が関の金融庁まで連れていき、取り調べを始めた。家の仕事部屋からは、パソコンや書類が押収された。

 疑われていたのは、10年9月29日の東京電力の公募増資に関するインサイダー取引。東電が増資を発表する前に、Hさんが野村証券の営業担当だったAさんから公募増資に関する重要事実を聞き、東電株200株を売り、さらに顧客の米国証券会社X社のトレーダーBさんにも情報を伝えたと、SESCは見ていた。

 一方、Hさんによれば、業界では東電が増資するのではないかという噂は流れていたが、それとは違う風評もあった。Aさんとはさまざまな情報や分析を交換しただけであって、重要事実らしい情報を聞いた覚えはまったくなかった。

 それでも、HさんはSESCの調査には協力した。

「当時、いくつもの増資案件があり、そのたびに増資が発表になる1カ月くらい前から大量の当該企業の株価が売られて下落する現象が起きていました。東電の株価、増資を発表する前から異常な下がりようでした。私のような個人が、たかだか200株を売ったくらいで、そんな下がるはずもありません。大口の機関投資家や海外のファンドが事前に情報を得て、大量に売っているインサイダー取引が行われていたのは明らかです。そうした不正は当然取り締まられるべきだと考えていましたし、私自身については、正直に話せば嫌疑はすぐに晴れると思っていました」

 しかし、そうはならなかった。

 SESCの調査官は、2年前のAさんやBさんのやりとりについて、執拗に問いただしてきた。Hさんにとっては、当時、毎日のように接触していた相手との、なんでもない会話やチャットについて、詳細な記憶はない。あれよあれよという間に、SESCのストーリーに沿った調書がつくられてしまった。説明とは違う趣旨の記載もされた。抗議をしても、ニュアンスを和らげるくらいの訂正しかなされなかったという。

 結局、課徴金の対象として勧告されたのはHさんと、Hさんから情報を聞いたとされたX社だけだった。

 Hさんは金融審判で争った。金融審判は一見、審判官が裁判官役となり、刑事裁判で検察官に相当するSESCの“訴追”を公正に裁いているような構図で行われている。しかし、これはあくまで行政機関による手続のひとつだ。裁判所と検察庁は組織が異なるのに対し、SESCも審判官は同じ金融庁に属している身内。審判においては、「無罪推定」「疑わしきは被告人の利益に」などといった刑事裁判の原則も適用されない。曖昧な事実認定でSESCの主張を追認し、冤罪を生んでいるとの批判もある。

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