大手メディアが伝えない画期的判決!金融庁課徴金命令で初の取消判決…国家が犯した「2つの犯罪」とは
ちなみに、05年度から始まったこの制度で、昨年度までに426件の決定が出たが、SESCの勧告に対し金融審判で「違反事実なし」の決定はわずか2件だ。
この制度の問題点については、昨年3月12日に本連載48回目「刑事事件以上に『冤罪』を生みやすい『課徴金制度』 ようやく一石を投じる判決」で詳述した。
Hさんの主張も、まったく聞く耳を持ってもらえなかった。13年6月27日、Hさんに課徴金納付命令が発せられた。一方で、本当にインサイダー取引をやっている者には、なんのおとがめもなし。Hさんは、自分がスケープゴートにされたと感じた。
命じられた課徴金は6万円。もちろん、払えない額ではない。裁判で争えば、弁護士費用を含め、はるかに高額な訴訟費用を負わなければならないこともわかっていた。これまで、裁判で課徴金納付命令が取り消された前例はなく、裁判で勝てる確証もなかった。
しかし、どうしても納得がいかなかった。「やっていないことをやったとして、今後の自分の人生を生きることはできない。子どものためにも、それはできないと思った」とHさんは言う。
そこで、国(金融庁)を相手に、課徴金納付命令の取消を求める行政訴訟を起こした。
相次ぐ課徴金取り消し訴訟が示すもの
本件が原因で野村証券を懲戒解雇されたAさんも、解雇無効を求めて提訴した。東京地裁は昨年2月26日の判決で、「野村証券内部でAに重要事実が伝わったと評価できる事情はない」「AがHやX社に重要事実を伝えた事実も認められない」として、Aさんのインサイダー関与を否定。解雇無効と未払い賃金の支払いを命じた。野村証券側は控訴したが、東京高裁は今年3月9日にそれを退け、Aさんの“無罪”が確定した。
Hさんの裁判でも、東京地裁は昨年5月10日、やはりAさんが東電増資の重要事実を「知っていたとは認められない」と判断し、「その余の事実を判断するまでもない」として、国に本件課徴金納付命令の取り消しを命じた。05年に課徴金制度が始まって、金融庁の決定を取り消す司法判断は初めてだった。
国側が控訴したが、高裁判決はAさんが重要事実を知らなかったという事実認定を維持。そのうえで、断片的な情報を組み合わせることによって重要事実を認識するに至った場合も、「重要事実を知った」といえるとする国側の主張に対し、そんなことを認めれば、市場の噂やさまざまな開示情報からの分析や推測と違法行為の区別が曖昧になり、客観性や明確性に欠けると一蹴。
「刑罰や課徴金を課す対象となるのは、あくまで法によって規定されている構成要件に該当する内部情報を取得して行った取引でなければならない」として、Hさんのケースのように、曖昧で恣意的な基準でペナルティを課すこともあった金融庁の姿勢を批判した。
金融庁は「控訴しても国の意見が受け容れられなかったのは遺憾。上告するかどうかは判決内容を精査して対応する」としか述べていないが、厳格な法の適用を求める司法判断を無視することはできないはずだ。
白井弁護士は「今回の事件は、国家による犯罪だ」と語気を強める。