ライター、イラストレーター、カメラマン、デザイナー、ミュージシャン、カフェオーナー、コンサルタントなどの個人事業主――いわゆる、フリーランスと呼ばれる人にとって、老後の不安は尽きない。
事務手続きや税法を勉強するのが面倒だったり、「今、生活できているし、この先もなんとかなるだろう」と思っていたりすると、思わぬ落とし穴にはまる可能性もある。
そんなフリーランスの老後不安やお金の知識をわかりやすく教えてくれる一冊が『マンガ 自営業の老後』(上田惣子著、文響社刊)だ。
著者は現在50代のイラストレーター。20代のころから寝る間を惜しんで仕事をこなしていたが、40代後半になって仕事が激減し、気付けば年収が3分の1に。
その背景には、病気療養やクライアントが偉くなり現場を離れたといったことがあったという。
さらに、著者は振り込みや通帳チェックなどの事務手続きが大の苦手。確定申告の遅れも毎度のことで、年金も払ったことがなく、お金に関してかなりズボラな性格。
本書は、そんな著者が一念発起して老後の備えを始めるのが、この「老後不安脱出ルポ」。著者のズボラっぷりに笑いながら、フリーランスなら我が身を振り返ってしまう一冊だ。
■フリーランスの老後を救う「確定拠出年金」「小規模企業救済」
フリーランスなら覚えておきたいのが「確定拠出年金」「小規模企業救済」だ。どちらも、「老後」の助けになるし、節税にもなるので「今」も助かる制度。きちんと積立したほうがトータルで考えても得だという。
「確定拠出年金」は、国民年金や厚生年金などの公的年金とは別に、自分でお金を積み立てて老後に備えられる制度。ポイントは、「掛け金が全額所得控除」「運用益は非課税」であること。どちらも節税に努めたいフリーランスにはありがたい話だろう。
「小規模企業救済」は、廃業したときのために自分で退職金を準備する制度。ポイントは「掛け金は全額所得控除」「予定利率が高い」ということ。
前者は「確定拠出年金」と併せて利用すれば税金がかなり抑えられる。予定利率は、破格の1~1.5%。銀行の預金金利が0.001%程度の現状から考えれば夢のような数字といえる。
■フリーランスほど「国民年金」が大事
著者は、53歳まで一度も年金を払ったことがない生粋の“年金未納者”。払っていなかった理由は「メンドーくさかった」のと「仕事がそこそこ回っていたので老後も稼げるかも、と錯覚したこと」だったという。
本書によれば自営業者らの国民年金の納付率は62%。およそ4割の人が無年金だという。フリーランスだと著者と同じように考えている人は少なくないはずだ。
しかし、年金も老後の備えと節税を同時にできる制度なのでしっかり納付するほうが得。
折しも、平成28年11月に施行された「年金機能強化法」という法律により、年金受給資格を得られる納付期間が短縮された。これまで25年間払わないともらえなかった年金が、10年払えばもらえるようになったのだ。
「年金は払い損になる」という話もあるが、払い損になりやすいのは実は会社員が加入する厚生年金。本書によれば、国民年金(基礎年金)の納付額と受給額の損益分岐点は約10年なので、平均寿命まで生きれば十分に元は取れる計算になる。
これまで年金未払いの人でも、後納制度や免除制度を活用して、ぜひ納付しておきたいところだろう。
本書では、他にも自営業者のための住宅ローン事情や保険、会計の話が体当たりの取材で語られている。著者は、「今やることが見えてくると老後の不安が小さくなる」「今日からの準備だって大丈夫」と述べる。
先が見えない時代、先が見えない自営業者だからこそ、老後にはしっかり備えておきたいところだ。(ライター/大村佑介)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。