日本国内でもじわじわと自転車のシェアリング・サービスが拡大している。利用者にとっては移動の利便性が高まりうれしい限りだが、自転車シェアがもたらす効果はそれだけにとどまらない。場合によっては自動車産業や都市計画に大変革を迫るほどのインパクトをもたらす可能性がある。
シェアリング自転車はごく当たり前の存在に
ここ1~2年の間に、東京都心部ではシェアリング・サービスの自転車に乗る人とすれ違うのは日常的な光景となった。NTTドコモは自治体からの支援を受け自転車シェアの実証実験を以前から行っていたが、2015年には正式に法人化。すでに5000台近い自転車が稼働している状況だ。
シェアリング・サービスの利用者層は広い。地域住民と思われる人だけでなく、スーツを着たサラリーマンや外食のデリバリーとおぼしき人など、あきらかに業務に使っているというケースも多い。
スーツ姿のサラリーマンは、おそらくルート営業に従事する営業マンと考えられる。顧客への訪問頻度が高い業種の場合、営業所に自転車を準備するケースもあるが、そこまでのリソースは必要ないという業種の場合、随時自転車を調達できるシェアリング・サービスは好都合だ。
こうした動きを受けてコンビニエンスストア大手のセブン-イレブン・ジャパンとソフトバンクグループも本格的なサービスに乗り出している。両社は11月21日、自転車シェアリング事業で協業すると発表。ソフトバンクが展開する自転車シェアリングシステムの駐輪場をセブン-イレブンの敷地内に設置する方針を明らかにした。すでにさいたま市などで設置が始まっており、18年度中に首都圏など1000店舗で5000台の自転車を提供するという。
地方都市の動きも活発化している。17年の8月には、中国の自転車シェアリング大手のモバイク(摩拝単車)が札幌でサービスをスタートさせた。今後、国内の各都市にサービスを拡大していく予定だという。
モバイクは北京を拠点にシェアリング・サービスを提供しており、中国では非常に有名な企業である。中国のITサービスはQRコードを使ったものが多く、ごく簡単に利用できる。ちなみにモバイクは17年12月、LINEとの資本提携を発表しており、今後はLINEとの連携によって一気に全国展開するというシナリオも考えられる。
自転車シェアが自動車産業にもたらす影響は甚大
自転車シェアリングは、シンプルなビジネス・モデルである。事業者は安価な利用料金(ドコモの自転車シェアの場合には30分100円、最初の30分は150円。月額の料金体系もある)を受け取って自転車を貸し出すだけだ。どの自転車であっても機能に大差はないので、事業者間での差別化も難しい。アシスト付きかそうでないのかといったぐらいしか違いを出すことはできないだろう。
そうなってくると経営学でいうところの「価格優位の戦略」ということになり、低価格でシェアを確保した事業者が圧倒的に有利になる。しかも価格が安いので大幅な値引きは難しく、後発組がシェアを逆転させるのも難しい。結果的に企業体力があり、早いタイミングで参入した少数の事業者が生き残るという市場構造になる可能性が高い。