実際、自転車シェアが一気に普及した中国では、自転車シェアリング企業の倒産ラッシュになっている。シェアが高く体力のある企業だけが生き残り、その他の企業は続々と市場からの退出を迫られるわけだ。日本でも黎明期である現時点で参入した企業が、引き続き業界の主役であり続ける可能性が高いだろう。
では自転車シェアが社会に普及した場合、経済やビジネスにどのような影響があるのだろうか。筆者は想像以上に大きなインパクトをもたらすと考えている。特に自動車産業への影響は甚大だろう。
このところ自動車業界では、EV(電気自動車)シフトと自動運転の話題で持ちきりである。自動車の動力が内燃機関からモーターに変わることと、自動運転技術の発達は直接関係する話ではない。また自転車シェアとEV化の話もそれぞれ独立したものである。
だが、一連の出来事はすべて相互に関係している。社会のIT化、AI化というキーワードで地下茎のようにつながっていると考えたほうがよい。
最終的には都市計画そのものも変貌する
自転車シェアが普及してくると都市部における移動手段としての乗用車のニーズは大きく減少することになる。冒頭にルート営業マンが自転車シェアを使うケースを紹介したが、企業の営業所が保有する自動車の数は確実に減ってくるだろう。
同じような流れでカーシェアの利用者も増えると考えられる。企業は駐車スペースのコストをより強く意識するようになり、必要最小限の車両しか保有しなくなる可能性が高い。こうした動きは、結局のところEV化や自動運転化を強く後押しすることになる。
実際、中国ではそのような動きになっている。自転車シェアが普及したことで大都市圏での自動車の利用が急速に減っているのだ。中国は国をあげてEV化を進めようとしているが、現実問題としてEV化を進めるのはそうたやすいことではない。中国政府がEV化を強行できると判断した背景には、大都市圏における自転車シェアの拡大によって、都市部の移動の常識が変わることを確信したからにほかならない。
一連の動きは最終的に都市計画にも大きな影響を与えることになるだろう。自転車シェアや自動運転が普及すると、これまで必要とされてきた広大な駐車スペースが不要となる。ビルや公共施設については、基本設計から見直しが必要となるかもしれない。
スペインのバルセロナでは、都市部の再開発に際して自動車の乗り入れを禁止したところ、不動産価格が大幅に上昇したという。再開発されたエリアには、米IT企業のシスコシステムズが3000万ドルを投じてイノベーションセンターを建設したり、米アマゾンの欧州拠点もオフィスを構えている。日本でも今後、似たような動きが出てくるかもしれない。
これまで多くの都市は、自動車の存在を大前提として設計されてきた。本来、美しい光景だったはずの日本橋を、上から覆う格好で首都高速道路が建設されている東京もその例外ではない。だが近い将来、こうした常識は180度変わっている可能性がある。自転車シェアの普及はその前段階と考えるべきだろう。
(文=加谷珪一/経済評論家)