1月26日午前3時頃、仮想通貨取引所である「コインチェック(Coincheck)」から、仮想通貨である「NEM(ネム)」が不正に社外に流出したことが判明した。不正に持ち出されたNEMの時価総額は、580億円程度とみられる。この事態を受けて、多くのNEM投資家が、コインチェックの入るビルに押し掛けた様子がメディアで報じられた。コインチェックがなぜ不正なアクセスを防ぐことができなかったのか、また今後、コインチェックが投資家の損失をどう補てんしていくか不透明な要素も多く、社会の関心も高い。
コインチェックは非公開企業であり、詳細な財務内容や経営戦略はつまびらかになってはいない。そのため、仮想通貨の取引所の運営などに関する同社の方針などを考える際、どうしても推測を介在させざるを得ない。また、今後の分析が事後的になるため、さまざまな問題が指摘されることだろう。
重要なことは、限られた時間のなかで同社が事態の解明を行い、金融庁などの監督当局と密接に連携していくことだ。それは仮想通貨の取引だけでなく、多くの金融機関がIT技術と金融理論の融合を目指す“フィンテック事業”を進めるためにも、重要な教訓となるはずだ。今回のケースを、一企業の稚拙な経営管理に起因する問題として片づけるのではなく、新しい取り組みを促進するきっかけとしていくことが重要だ。
和田社長の才覚が生み出したコインチェック
コインチェックの歴史を振り返ると、同社を設立した和田晃一良社長の存在が大きい。端的に言えば、同氏のテクノロジーへの理解力とそれを実社会で応用しようとする才覚が、同社の急成長をもたらした。これは、稀有なことだ。
和田氏は大学に在学していたときから、さまざまなアプリ開発コンペなどで受賞を重ねてきた。就職することも一旦は選択していたようだが、最終的にはコインチェックの前身であるレジュプレスというスタートアップ企業の設立に参画した。ここで、和田氏は人それぞれの経験や逸話を投稿するサイトである「STORY.JP」を開発したことで知られる。
こうした和田氏の経歴を見ると、同氏が長い間プログラミングに深い関心を持っていたことがわかる。また、自ら起業を選択したことを見ても、自らの発想と判断力で多くのネットユーザーを中心に、人々の支持を集めるアプリケーションの開発や、サイトの運営ができるとの自負があったのだろう。おそらく、同氏の心理には、既存の枠組みではなく、自分で新しい価値観やビジョンを示したいという思いが強かったと見られる。