和田氏にとって、ビットコインの普及とともに世界全体で関心を集めてきた仮想通貨のビジネスに参入することは、ごくごく自然な流れだったのかもしれない。前身のレジュプレスというストーリーを展開するコンテンツサイトの運営から、仮想通貨ビジネスへ戦略を大きく転換した。
この判断には、賛否両論あったようだ。しかし同氏にとって、ユーザーの利便性を高めるテクノロジーを実用化する能力・実力があれば、ビジネスの内容が異なっても対応可能との見込みがあったのだろう。その考えを表すように、コインチェックは、ビットコインやイーサリアムをはじめ13の仮想通貨の取引を仲介している。
ビジネスの急成長に追いつくことのできなかった経営管理
ビットコイン以外の仮想通貨のことを一般的に「オルトコイン(アルトコイン)」と呼ぶ。仮想通貨取引への人気が高まるなかで、コインチェックが他の取引所運営企業よりも豊富な投資の選択肢を提供してきたことは、当社の急成長を支える主な要因となった。
そのなかで、同社は急拡大するビジネスのリスクを的確に把握し、リスクへの対応策を実施していく組織的な能力を備えることができなかった。26日未明のNEM不正流出の発覚以降、同社が導入すべき技術を取り入れてこなかったことが明らかとなった。それは、経営管理の不備の発覚ともいえる。
同社は仮想通貨の秘密鍵(銀行のキャッシュカードの暗証番号のようなもの)を、常時ネット環境に接続する「ホット・ウォレット」で管理し、ネットと切り離された別のシステムで管理する「コールド・ウォレット」を用いていなかった。これが最大の問題だ。また、国際的にも仮想通貨取引の基本的なセキュリティー技術と認識・推奨されている「マルチシグ(マルチシグネチャー、金庫に複数のカギをかけるように、複数のパスワード<署名>を複数のコンピューターで保管し、ハッキングなどを防ぐ技術)」も導入されていなかった。
和田氏の会見内容からは、技術的な難しさ、他の優先すべき案件があったため、本来なされるべき対策が実施されてこなかったことが確認できる。終始一貫して感じられたのは「セキュリティーの甘さが原因ではない」など、経営上の問題が何か、和田氏本人が理解できていないように見えたことだ。