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世界では主軸の風力発電、日本では「ガラ空き」の送電線を使えずまったく普及しない理由

文=北沢栄/ジャーナリスト
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世界では主軸の風力発電、日本では「ガラ空き」の送電線を使えずまったく普及しない理由の画像1福島沖の浮体式洋上風力発電の風車

「将来の基幹電源」と目される再生可能エネルギーだが、日本は欧州に比べて普及のスピードが遅い。

 日本の発電電力量に占める再生エネの割合は、2016年度には水力の7.5%を含めても、なお15.3%にとどまる。そのなかで頭ひとつ抜けて先行する太陽光でも4.8%、海に囲まれているのに風力はたったの0.6%、温泉を楽しむ火山国なのに地熱発電はわずか0.7%だ。

先を進む欧州、ドイツは35%に

 再生エネ導入で、欧州ははるか先を進む。15年の欧州連合(EU)平均が29%、うちドイツ29%、英国25%――と、欧州では再生エネが電源の柱に育ってきた。脱原発政策を進めるドイツは、再生エネ比率が35%に達したとも伝えられる。

 日本で普及を阻んでいる主因は、高コストだ。価格は下がっているが、海外では日本以上に急ピッチで低落している。太陽光発電で見ると、電力会社が事業者から買い取る固定価格買取制度(FIT)の導入から6年連続で買取価格が下がった。

 18年度は大規模な太陽光発電の場合、1キロワット時当たり18円と14%の引き下げとなる。制度開始時の40円に比べて半値以下だ。電力会社から事業者に支払うカネは電気料金に上乗せされるため、買取価格の引き下げで国民負担(現在、平均的な世帯で月額686円)は減り、普及に弾みがつく。

 価格引き下げが可能になったのは、太陽光パネル設備費用の大幅下落などによるところが大きい。太陽光の導入割合は、制度前に比べて10倍以上増えた。制度導入の一定の成果が表れてきたといえる。それにもかかわらず、海外ではコスト引き下げのスピードが日本よりも速い。ドイツの太陽光価格は9円(16年)と日本の半値だ。日本としては、昨年秋に始めた太陽光発電の入札制度を活用して、欧州より2倍高い工事費などを大幅に引き下げる必要がある。

 国際機関の報告によると、太陽光の発電コストは10年からの7年間に世界平均で73%下落している。

送電線が空いていても再生エネは利用できない?

 問題は、風力と地熱発電の遅れだ。普及を阻む大きな原因は、コスト高と送電線接続などの規制にある。世界を見回すと、再生エネの支柱は太陽光よりも風力だ。再生エネ導入が29%と進むドイツでは、うち風力は12%と太陽光6%の2倍。英国は再生エネ25%中、風力は12%と太陽光2%の6倍に上る。

 英国と同じ島国なのに日本の洋上風力発電が普及しないことを、海外の発電事業者は訝る。資源エネルギー庁によれば、風力発電の利点は「大規模に開発できれば発電コストが火力並みに下がる」ところにある。また、「特に洋上では、陸上と比べ好風況で発電効率が高く、大規模な風車の設備が可能」と指摘する。

 ところが、風力導入の壁になっているのが風車本体以外の高コストだ。多くは山地につくられるが、造成工事や輸送路整備の費用がかかる。送電線の新設費用の一部を大手電力会社に支払わなければならず、この負担も一際大きい。強い風が吹き適地とされる東北などで、既存の送電線が原子力発電所の停止や火力発電所の遊休で「ガラ空き」なのに、大手電力から「満杯」として接続できず、高額な送電線の増強費用を求められるケースが後を絶たない。

 電力会社の言い分は、「契約している発電設備の分は稼働していなくても空けておく必要がある」というものだ。送電線の利用実態とは関係ない。原発や火力発電所が動かず送電線が空いていても、新規参入の再生エネ事業者は利用できない制度上の不備があるのだ。その結果、日本の送電線関連費用はドイツの約3倍にも上る。

地熱発電の資源量は世界3位の日本

 遅ればせながら、経済産業省は空き容量を見ながら既存の送電線を有効に利用する英国モデルにならう取り組みを始めた。まだ試験段階の洋上風力発電も、普及に向け30年までに全国5カ所に「促進区域」を設ける新法案を今国会に提出する方針だ。風力の買取価格も太陽光並みに引き下げる。

 洋上風力は、海上に浮かせたり海底の基盤の上に建てたりした風車で発電し、海底ケーブルで電力を送る仕組み。候補地として、試験中の福島に続き青森、秋田、長崎の沖合が有力とされる。

 とりわけ注目されるのが、実証実験に入った福島沖の浮体式洋上風力発電だ。世界最大規模の3基の風車と浮体式洋上変電所を順次設置し、本格導入を目指す。成功すれば、福島第一原発事故で壊滅した福島・浜通りの地域経済復興のための「福島イノベーション・コースト構想」実現への大きな一歩となる。

世界では主軸の風力発電、日本では「ガラ空き」の送電線を使えずまったく普及しない理由の画像2

 他方、地熱発電は太陽光や風力とは違い、天候に左右されないのが強みだ。日本の地熱の資源量は米国、インドネシアに次ぐ世界3位。地熱発電用のタービンでも三菱日立パワーシステムズ、東芝、富士電機など日本企業が世界シェアの大半を占める。

 しかし、候補地の大部分は国立・国定公園や温泉地で、発電の適地は見つかりにくい。目下、国は埋蔵調査の段階だが、大規模な開発が難しいのなら、温泉地向けなどに小規模発電を広げる工夫が必要だ。

 再生エネを普及させ、地球温暖化を抑える低炭素社会を実現するには、高コスト構造や運用の壁を解消する規制改革、事業に参入しやすくする法整備が欠かせない。
(文=北沢栄/ジャーナリスト)

北沢栄/ジャーナリスト

北沢栄/ジャーナリスト

慶應義塾大学経済学部卒業後、共同通信経済部記者、ニューヨーク特派員などを経て、フリーのジャーナリストに。

Twitter:@sxegwipcaocqsby

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