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「米国の保護主義→円高」との見方は危険だ…かえって米国GDPは成長の可能性

文=加谷珪一/経済評論家
「米国の保護主義→円高」との見方は危険だ…かえって米国GDPは成長の可能性 の画像1トランプ大統領(AFP/アフロ)

 トランプ米政権がいよいよ保護主義的な通商政策に乗り出した。トランプ政権にとって重要な節目となる11月の中間選挙までのパフォーマンスとの見方もあるが、相手国が報復措置などで対抗した場合には、自由貿易体制に亀裂が入る可能性も否定できない。

 市場はこうした動きを嫌気して円高になっており、今後、さらに円高が進むとの予測も出ている。だが、長期的に見た場合、「保護主義の台頭=円高」とは限らない。もし保護主義的な流れが続くようなら、逆に円安に振れる可能性もある。短期的には円高警戒で問題ないが、長期的には円安シフトも頭の片隅に入れておいたほうがよいだろう。

対中貿易赤字は全体の半分以上を占める

 
 トランプ政権が中国に対して1000億ドル(約10兆6000億円)の貿易赤字削減を求めたことが明らかとなった。この数字はあくまで交渉材料であり、最終的にどのようなかたちに落ち着くのか現時点ではまったくわからない。交渉材料として持ち出した数字とはいえ、金額が金額だけに世界経済に対するインパクトは大きい。

 米国の2017年における貿易赤字(サービス含む)は5684億ドル(約60兆円)となっている。リーマンショック前の好景気のときには7600億ドルを超えたこともあったが、バブル崩壊で赤字は大幅に縮小した。だが、米国の景気が回復するにつれて貿易赤字は再び拡大傾向となり、過去4年、連続して赤字が増えている。

 国別では中国が圧倒的に多く、対中貿易赤字は3750億ドルと全体の半分以上を占めている。今回の要求は1000億ドルの赤字削減なので、対中貿易赤字を4分の1にするよう求めたことになる。また、削減要求が中国に対してだけとは限らず、対EU、対日本に波及する可能性もゼロではないだろう。

 こうした動きを警戒して、為替市場では円高が進み、株式市場も冴えない展開が続いている。中間選挙の実施は11月なので、当分、こうした動きが続くと見る市場関係者は多い。

 だが、トランプ政権の保護主義的なスタンスが、単なる選挙目当てのパフォーマンスであるとは限らない。仮にこれが持続的な政策だった場合、世界経済には多大な影響が及ぶ。一部の市場関係者からは、さらなる円高の進展を警戒する声も上がっているようだ。

米国は自給自足ができる巨大な島国

 現時点では、保護主義的な通商政策が市場にネガティブな印象を与えるという理由から、円高・ドル安が進んでいる。確かに保護主義的な政策が実施された場合、米国の株式市場に流れ込んでいた資金が、不安心理から逆流する可能性は否定できない。円高を警戒するというスタンスは間違っていないだろう。

 だが、保護主義的な動きが長期化した場合、必ずしも円高とは限らなくなってくる。場合によっては円安になる可能性も考えられるので注意が必要だ。少なくとも、「保護主義=円高」という固定観念は捨てておいたほうがよい。

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

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