長期的なわが国の経済環境を考えると、人口減少・少子高齢化の進行が避けられない状況だ。企業にとって需要は高まりづらい。企業が国内事業から収益を獲得し、成長を目指すことは容易ではない。収益を確保するために、海外企業の買収などを目指す考えは今後も強まるだろう。
その一例が、武田薬品工業だ。同社は前会長だった長谷川閑史氏の指揮の下、グローバル企業を目指してきた。具体的には、海外の製薬企業のマネジメントを務めた人材を採用し、がん治療薬などで競争力を持つ海外企業を買収してきた。わかりやすくいえば、武田はファイザーやロシュなどの世界大手に肩を並べる製薬企業にのし上がろうとしている。
そのために、2008年に米バイオ医薬品のミレニアム・ファーマシューティカルズを88億ドル(当時の為替レートで約9000億円)で買収し、2011年にはスイスの製薬企業ナイコメッドを96億ユーロ(約1.1兆円)で買収した。加えて昨年1月には米アリアド・ファーマシューティカルズの買収に6000億円超の金額を投じた。
しかし、株価動向を見る限り、武田の経営戦略は将来への期待を高められてはいない。むしろ、度重なる大型買収の結果、利益率が悪化するなど、経営への不安が高まりつつある。同社は、従来とは異なる取り組みが必要な局面を迎えている。
不安視されるシャイアーの買収案件
3月28日、武田はアイルランドの医薬品大手企業であるシャイアーの買収を検討していると発表した。シャイアーの時価総額は現時点での為替レートに基づくと4兆円を超える。時価総額でみれば、シャイアーは武田より大きい。この買収規模は国内企業によるM&A(合併・買収)のなかで最大級だ。
重要なポイントは、武田が巨額の買収によって成長を実現しようとしていることだ。買収が実施されるか否かは決定されていないが、実際に買収を行うとなれば、社債の発行などによる資金調達は不可避だろう。それが市場参加者からの評価を集められるとは考えづらい。
これまでの武田の買収戦略は市場からの評価が芳しくない。長谷川・ウェバー(クリストフ・ウェバー現社長、英製薬大手グラクソ・スミスクラインのワクチン事業トップなどを歴任)体制で進められてきた海外企業の買収は、売上高を増加させた。しかし、株主に帰属する利益が増えていない。リーマンショック直後まで10%台を維持していたROE(株主資本利益率、当期純利益を自己資本で除した利益率の尺度)は、近年5%前後の水準に低下している。これを見る限り、同社の買収戦略は失敗したと評価されても仕方がない。その中で、自社よりも時価総額の大きな企業の買収の可能性が浮上しただけに、株式・債券投資家の多くが武田の経営戦略に対する不安を強めたことは想像に難くない。