製薬から再生へ:国内でのビジネスチャンス
新薬の開発には特許、規制などのリスクが伴う。そのなかで、製薬企業が存在感を示していくためには、他社とは異なる発想が必要だ。買収を繰り返す経営は、製薬を前提とした発想に基づいている。これに対して、再生医療を実用化できれば、薬は必要なくなるかもしれない。こうした発想の転換も検討されるべきだ。他社が羨むテクノロジーを開発することができれば、武田だけしか生み出せない分野を開拓できるはずだ。
わが国に、そのチャンスはある。それが、京都大学の山中伸弥教授を中心に研究が進められているiPS細胞だ。1月、iPS細胞研究所の助教による論文ねつ造が発覚した。この不正は許されるものではない。一方、研究予算の乏しさ、有期限雇用での研究体制が不正につながったとの見方もある。ゆとりを持って研究に取り組む環境が整備されていたなら、状況は違ったかもしれない。
基礎研究分野での不正は、今後の成果に対する不信感につながる。それは、避けなければならない。再生医療への期待、潜在的な需要の大きさを考えると、この状況を産学官の協力によって解決すべきだ。特に、企業の関与は欠かせない。
目下、山中教授のグループは富士フイルムの持つ特許技術を用いてiPS細胞を用いた医療の普及を目指している。武田は、富士フイルムと提携して再生医療事業を強化しようとしているが、産学でのベンチャー創設など、別の角度から再生医療事業を強化することを考えてもよいだろう。それは、買収とは異なり、自社内部で独自の研究を進め、ほかにはないテクノロジーの実現に向けた取り組みといえる。再生医療の安全性を確立するためには、企業が研究をサポートし、試験データを蓄積していくことも必要だ。
海外企業の買収を中心に成長を目指すことは重要だ。それに加えて、国内の研究に目を向け、研究者の理解を得ながらその発展を目指すことで収益を強化することもできるだろう。それは、製薬メーカーとしての社会的な役割を発揮することにもつながると考える。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)