社長就任から4年。武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長が起死回生策の賭けに出たが、失敗に終わる確率が極めて高いとの指摘も多い。失敗する理由を詳細にみてみよう。
まず、事実関係を確認しておきたい。
武田薬品は5月8日、アイルランド製薬大手のシャイアーを総額460億ポンド(約6兆8000億円)で買収することで合意した。シャイアーの抱える有利子負債(1兆5000億円)を加えると、8兆3000億円規模のビッグな買い物になる。
実現すれば、日本企業による過去最大のM&A(買収・合併)となる。これまでは、ソフトバンクグループの英半導体設計、アーム・ホールディングス(3兆3000億円)だったから、買収額だけで2倍強となる。
武田薬品は5度目の提案でシャイアー株、1株当たりの買収額を49.01ポンドに引き上げた結果、買収総額は15億ポンド(2000億円)も膨張した。1株当たり21.75ポンドの現金(キャッシュ)と27.26ポンド相当分の武田薬品が新規に発行する株式をシャイアー株主に交付する。
武田薬品はシャイアーの買収で新たに3兆円規模の借金を抱え、武田薬品の発行済み株式数は現在の2倍強に急増する。したがって、既存株主が手にする1株当たり利益は、計算上では半分以下に目減りすることになる。武田薬品の株主にとって、この巨額買収はメリットがあるのだろうか。
そもそも、ウェバー社長は誰のために、身の丈を超えた、無謀ともみえるM&Aに踏み切ったのか。
ウェバー社長は買収に執念をみせ、ようやく合意にたどり着いたが、英国には、さらに有利な条件を出す買い手が出てくれば合意を保留し、再検討しなければならないルールがある。武田薬品は2019年上期(19年9月まで)での買収完了を目指している。しかし、買収成立までには、まだ曲折がありそうだ。